スミレの花が咲いて
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った者をことごとく殺してしまう恐るべき魔人であった。彼はそれを倒しに向かったのだ。
若者は何とかその魔人を倒した。そしてまたもや部族を救ったのである。その帰りであった。
彼は一人草原を歩いていた。見れば遠くに集落があった。
「あれは」
彼はそれを見て眉を少し顰めさせた。その集落は彼の部族と仲の悪い部族のものであったのだ。以前には戦争もあった。彼はそこでも勇敢に戦い多くの者を倒しているのである。彼も、そして向こうもそれは忘れてはいないであろう。
彼は用心して進むことにした。見れば向こうも彼を意識しては近付いて来ない。そのまま無事通り抜けられるかと思った。だがここで彼は動きを止めた。
「なっ」
その集落に一人の少女がいたのだ。黒い髪に黒い瞳のあどけない顔立ちの少女であった。小柄でほっそりとした身体を丈の長い服で包んでいた。彼はその少女を見て思わず足を止めたのである。
「何と美しい」
彼はその少女を見初めてしまった。見れば少女の方も彼を見て頬を赤らめさせていた。これは運命であったのであろうか。運命だったとしたならば残酷なものであった。時として運命の神は人を弄ぶ。この時もそうであった。
彼は足を止めていた。それを警戒した敵の部族の者達が動きはじめたのである。牽制の為であった。
「いけない」
彼はそれを受けてその場を去った。だがその顔は少女を見たままであった。そして彼は止むを得なくその場を去った。だが彼はその少女の顔を忘れることはできなかった。村に帰ってもそれは変わらなかった。
「彼は一体どうしたんだ」
村人達は日々悶々としている彼を見てそう囁き合った。彼等は彼の豹変の理由がわからなかったのだ。それは両親も同じであった。
「どうしたんだい、急に」
「何でもないよ」
彼はそう答えるだけであった。だが何もないとは誰も思わなかった。皆そんな彼を見て不思議に思い、不安に感じるばかりであった。だが長老だけは違っていた。彼はこっそりと自分の家に彼を呼んだ。そして二人だけで話をはじめたのであった。
「のう」
彼は若者と向かい合って話をはじめた。
「はい」
若者はその大きな身体を丸めて長老の話を聞いていた。丸めてはいてもやはりその身体は大きい。長老の優に二倍はあった。
「悩みがあるのじゃろう」
「・・・・・・はい」
彼は静かに頷いてそう答えた。長老はそれを聞いて頷いた。
「やはりな。恋をしておるな」
「どうしてわかったのですか」
「ふふふ」
長老はそれを聞いて笑った。優しい笑みであった。
「わからないと思うたか。わしは御前を赤ん坊の頃から見ておったのじゃ」
「はあ」
「御前の両親のこともな。御前よりずっと長く生きておるのじゃ」
「
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