第五章
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た純が言ってきた。多恵に対して。
「雰囲気が合っているんだよね、多恵ちゃんに」
「そうなのかしら、やっぱり」
「例え歌うのが上手くても」
今度はこう言ってきた。言葉の説得力がさっきより増した感じがあった。
「雰囲気が合わないと駄目なんだよ」
「そうなのね」
「そうだよ。多恵ちゃんには中森明菜の曲が雰囲気として合ってるんだよ」
彼が言うにはこうなのだ。雰囲気だと。多恵はそれを言われてまだ今一つわからない顔をしているがそれでもだった。その言葉は続くのだった。
「それでね」
「ええ」
「今度は何を歌うの?」
それを多恵に問うてきた。
「また私?」
「うん。何がいいの?」
「それはちょっと」
彼の勧めを今回は微妙な顔で応えるのだった。
「遠慮させてもらうわ」
「どうしてなの?」
「私はもう一曲歌ったからよ」
理由はこれだった。気を使っているのだ。
「また中森明菜よね」
「うん」
多恵のその言葉にこくりと頷いてきた。
「そのつもりだけれど」
「だったら。千恵に御願い」
ここで双子の妹に話を振るのだった。
「中森明菜だったら」
また彼女のことが出る。見れば本当に二人の雰囲気は中森明菜のそれだった。
「千恵だって歌えるわよ。だって雰囲気だから」
「多恵」
ここで千恵が多恵に声をかけてきた。多恵も彼女に顔を向けた。
「私はいいわ」
「いいって」
「いいのよ」
微笑んで右手を前に出しての言葉だった。制止である。
「私はね」
「歌わないの」
「ちょっと。喉の調子が悪くて」
それが理由であった。千恵自身が言うにはで、ある。
「だからいいの。悪いわね」
「そうだったの」
「そういうこと。いいわね、それで」
「ええ、まあ」
千恵が寂しい笑顔になっているのを見ながら応えた。ここでは彼女の気持ちはただ喉が悪いからとだけ思うのだった。それだけであった。
「それなら。仕方ないわよね」
「悪いわね」
「謝ることはないわよ」
それはいいとするのだった。多恵は気軽に妹に対して告げた。
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