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駄目親父としっかり娘の珍道中
第64話 何時の季節も蚊は鬱陶しい
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、死ね……あっ!」

 其処に居たのは白装束を身に纏い頭に白い布で二本の蝋燭を固定した沖田総梧の姿があった。沖田の両手が後ろに回される。どうやら、何か見られたら不味い物でも持っているのだろうか。

「何してんだ? そんな所で」
「えっと……ジョギング」
「嘘こけ! そんな恰好でジョギングしてたら頭火だるまんなるだろうが!」

 確かに、その恰好でジョギングはいまいちと言えた。

「どうせあれだろう。土方を呪い殺す儀式でもしていたのだろう? 別にかまわんが、何故私もついでに殺すんだ?」
「別に他意はないでさぁ。ただ、一人だと土方さんも寂しそうだし、二人とも案外仲良さそうなんで二人揃って昇天させるのが優しさってもんじゃねぇんじゃねぇかなぁ、って思っただけでさぁ」
「「大きなお世話だ!」」

 二人は否定しているようだが、声が揃っている時点でそれは稀有に終わる事を予見させていた。まぁ、今は他にも言いたいことはたくさんある。だが、ふと土方が沖田から視線を逸らし、空に上がっている月を見上げた時、其処に有り得ない者が映ったのを知った。
 真っ暗な夜空に浮かぶ満月。その満月の下にある屯所周囲を取り囲んでいる壁。その壁にもたれかかるかの様にこちらを凝視している赤い着物を着た長い髪の女。
 土方は目を擦って再度その場を凝視した。その場に女は居なかった。
 だが、確かに土方は見た。赤い着物を着た長い髪の女を。
 ま、まさか……例の怪談話の?
 土方はゆっくりとシグナムの方を見た。そのシグナムもまた目を大きく見開き、冷や汗を流していた。どうやら彼女もまた土方と同じで例の赤い着物の女を目撃したのであろう。
 二人の間に不気味な沈黙が生まれる。

「どうしたんですかい? 二人とも」
「い、今……壁の上に赤い着物の女が居たんだ」
「はぁ? 何寝ぼけた事言ってんですかい。こんな時間にそんなバカな真似する奴なんて居る訳―――」

 居る訳ない。そう言い切ろうとしたその時だった。屯所内に響き渡る絶叫。音からして隊士達のこもっていた寝室の方からだった。
 嫌な予感がする。まさか攘夷志士の強襲では?
 不安を胸に三人は先の部屋へと戻ってきた。其処には大勢の隊士達がもがき苦しみ倒れているまるで地獄絵図の様な光景が映されていた。




     ***




「参ったなぁ、こりゃ」
 
 時刻は既に朝方となり、土方は目の前の惨状に思わずため息を漏らす次第であった。
 昨夜の事件から隊士達はうわ言の様に「赤い着物の長い髪の女が……」とつぶやいてばかりだった。
 まさか、江戸の治安を守る存在である真選組がよりにもよって怪談話に出てくるお化けにやられたなんて世間に知れたら赤っ恥ものだ。下手したら全員即座に切腹を命じられ
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