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駄目親父としっかり娘の珍道中
第64話 何時の季節も蚊は鬱陶しい
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だろう。
 そろそろトドメを刺すとするか。そう思い、語り部はまた語りだした。

「何処まで歩いたかなぁ? 目の前の街頭の下で一人の女が立っていたんだ。真っ赤な着物を着てて、長い髪で顔を覆い隠している薄気味悪い女だったよ。最初は無視して通り過ぎようとしたんだけど、あんまりにもその女の事が気になって尋ねてみたんだよ。「おい、こんな所で何してるんだ?」そう尋ねてみると、女はこっちを見てそっと口を開いたんだ―――」

 いよいよ話はクライマックスに突入した。聞き手たちの顔に油汗が滲み出ているのが伺える。後は締めをしくじらなければこの怪談話は大成功の元に幕を閉じるだろう。語り部の真骨頂が発揮される大事な場面であった。
 語り部は一呼吸間を置き、そしてゆっくりと口を開き言い放った。

「マヨネーズが足りないんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!」
「買い出し行った奴誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 突如、背後から怒号が響いた。その怒号に部屋中大パニックに陥り、部屋中を走り回る者や床の上でのた打ち回る者などが続出しだした。
 事態の収束を図る為に、部屋の明かりをつける。其処に居たのは不満たらたらな顔で片手に黄色い何かが盛られた皿を持っている土方とシグナムの姿があった。

「ふ、副長! それに姉さんまで、何てことしてくれるんですか? 折角のオチが台無しじゃないですかぁ!」

 折角の怪談話のオチを台無しにされてしまい、隊士達は不満全開の表情を浮かべていた。しかし、そんな隊士達の不満など全く気にしないかの如く、土方とシグナムは持っていた皿の上の黄色い何かを見せつけてきた。

「何が怪談話だ! ガキじゃあるまいし。それよりこれを見ろ! てめぇらがマヨネーズの補充をさぼったせいで折角の焼きそばが台無しじゃねぇか!」
「今日の買い出し当番はシャマルだったな。貴様、あれほどマヨネーズを買い忘れるなと釘刺していたと言うのに忘れるとは、それでも主を守護する騎士か? 湖の騎士の名が泣くぞ!」
「関係なくない? 守護騎士とマヨネーズの接点が全く分からないんだけど」

 話題にされたシャマルはたまったものじゃない。本来なら立ち上がって抗議したいところなのだろうがさっきの怪談話と土方とシグナムの怒号のせいですっかり腰が抜けて立てないようだ。
 その為、座ったままの姿勢でシグナム達を見上げていた。

「大体、マヨネーズのストックならちゃんと買ったわよ。一本だけだけど」
「貴様は戯けか! たった一本で足りる筈がないだろうが! マヨネーズは一日十本買うのが決まりだと言うのを忘れたのか?」
「一日にそれだけ使う貴方たちの神経がおかしいのよ! 大体それの何処が焼きそばよ! もう焼きそばの原型ないじゃない! もうそれは既に黄色い何かよ! イエローデビルよ!」


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