第64話 何時の季節も蚊は鬱陶しい
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万事屋の三人が腐った蟹を食べて食中毒を起こし、病院に搬送されてから早一週間の時が過ぎていた。その間、一人退院したなのはは一人で家に居るのも危ないと言うのと親しい友人の所に居たいと言う事なので、数日分の着替えと貴重品を袋に詰めて、八神はやてや守護騎士達の寝泊りしている真選組屯所に身を寄せていた。
幸い此処一週間で目立った事件は起こっておらず、平和な日常を過ごしていた。最も、全く事件がなかった訳ではなく、酔っ払った侍が道中で刀を振り回す事件があったり、老婆のカバンがひったくられたりなど、細々とした事件はちょくちょくあった。
そんな平和であり少し騒がしい日常が続いていたある晩の事だった。
今でも思い出すだけでも身の毛のよだつあのおぞましい事件は、そう……今日みたいに蚊がやけに多い夜に起こったのであった。
***
「あれは、俺がガキの頃に起こった出来事なんだけどよぉ、友達と一緒に寺子屋に行ってた時の事だったよ」
その日の業務を終え、飯を食い風呂に入り終わった一同は寝床に集まり部屋を暗くして、ろうそくの明かりを真ん中に置いてそれを囲むように円の形で集まっていた。
夏の風物詩と言えば言わずもがな怪談話である。そして、今現在その怪談話を行っている真っ最中であった。
「友達と遊んでて、気が付いたら辺りが真っ暗になってて、いけねぇ、母ちゃんにどやされる! って急いで帰ってた時だったんだよ」
語り部の顔がろうそくの明かりに照らされて異様な姿を見せている。下から照らされているせいか普段よりも影が濃くなっておりそれが不思議と恐怖を演出させていた。
話を聞いている他の隊士達は勿論の事、なのはやはやて、それに騎士達もまた固唾を呑んでその話に耳を傾けていた。
語り部が周りを見回して反応を伺う。皆同じように自分の話にのめりこんでいるのを見て不気味な笑みを作る。どうやらこちらの術中に上手い具合に入り込んできたようだ。語り部がまず最初に行うのはこれである。如何にして聞き手を自分の世界に連れ込めるか。これ一つで盛り上がりに大きく差がでてしまうのだ。
反応は上々、後はもっと奥深くまでのめり込ませて行けばこちらの思う壺。そう思った語り部は更に話を進めた。
「辺りは真っ暗で、唯一点々とある街頭の明かりだけが頼りな道をおっかなびっくり歩いてたんだよなぁ。怖かったなぁ、おしっこちびりそうだったなぁ。曲がり角から誰か出てきそうだなぁ。それがもし人じゃなかったらどうしようかなぁ?」
話しながらも不安を煽るような個所を設ける。これにより聞き手たちの脳裏にはまさに自分が今その状況に置かれていると言う錯覚をさせる事が出来るのだ。今、聞き手たちの脳裏には薄暗い道をただ一人で歩いているビジョンが浮かんでいる事
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