第二章
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たことがない。ずっと妻だけだった。妻はそれが嬉しかったのだ。少なくとも自分だけを見ていてくれているからだ。
「だからいいわ。大切な時には正直だったから」
「それでいいのか」
「人間嘘は必要よ」
彼女なりの人生を学んだうえでの言葉であった。人間は時として嘘も必要になる。しかしそれは信頼を冒涜するような嘘ではなく相手を傷つける嘘でもあってはならない。それがわかっていないならばその嘘は必ず露見して己にふりかかる。嘘は難しいものなのだ。
「けれど。私を裏切る嘘じゃなかったから」
「いいんだな」
「いいわ。許してあげる」
「じゃあ俺も許そう」
夫はそれを受けて妻に対して言葉を返した。
「御前の嘘もな」
「有り難う」
妻は夫のその言葉を受けて微笑んだ。微笑みながら湖に顔をやるのだった。彼女も浮気はしたことはないがそれでも夫に嘘をついたことがある。それを今許すというのだ。これもまた信頼を傷つける嘘ではなかったからこそであった。
「そう思うと。私達今まで上手くやってこれたわね」
「そうだな」
これに関しては夫も妻も同じ考えであった。
「色々あったが」
「子供達もできて」
「暫くここに来ることすらできなかった」
「けれどそれもできるようになったわ」
妻は今度は完全に湖を見て微笑んでいた。
「毎年。ここに来たいわ」
「二人でか」
「勿論よ」
答えは決まっていた。
「あの頃みたいにね」
「あの頃の俺じゃなくてもか」
「それでもいいわ」
それはもうわかっていることだった。だから返事にも迷いがなかった。
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