第一部 学園都市篇
断章 アカシャ年代記《Akashick-record》
??.----・error:『Nyarlathotep』V
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出してくる。
別に甘いものは嫌いではないが、流石にこの量は見ただけで胃もたれする。と言うか、本来ならば無礼千万と怒っても致し方無かろう。
「はぁ……どうも」
「どうじゃ、甘かろ? これと、“かすていら”と言う奴は中々に旨い」
しかし、そこでも紳士なのがこの男。右手を────玉虫色に黒光する毛皮に包まれた、猫科の猛獣じみた右手を伸ばし、一粒金平糖を摘まんで口に放り込む。控え目な、如何にも滋味に充ちた自然甘味料の味がした。
「いやはや、それにしてもそれにしても。見物であったわ、実に実に。“まやかしの魔王”め、偉そうに『儂』が名を騙っておきながらあっさりと否定されおってからに……くくく、窮鼠に噛まれた猫、否、竜とはあんな顔をするのであるなぁ? あっははは……」
けらけらと、一体、何が可笑しいのか。よく分からないが、随分とご機嫌なようだ。そして、娘が熱を籠めて嘲笑えば嘲笑うほど、背後から凍てつくような殺気を孕む沈黙。
見れば、肘掛けに掛けた右腕の付近には……薔薇色の雫を波々と讃えた、総硝子製のボトル。左手には、同色の液体に満たされたワイングラスがある。笑い上戸なのかとそれを見詰める視線に気付いたのだろう、娘は得心がいった顔をして。
「ん、なんじゃ貴様、辛党か? ならば先に言え、今宵の儂は機嫌が良いからのう。苦しゅうない、仏蘭西とやらの、『わいん』なる酒じゃ、とくと味わえ……そして、子孫末代までの栄誉とするが良いぞ」
言うや金平糖の杯を転がし、畳にぶち撒けながらもう一つのグラスにワインを注ぐ。薔薇色の液体に満たされたワイングラス、馥郁たる香気が舞う。
そしてそれを、やはり……器用にも足の指で掴み上げ、差し出してくる。別に嫌みの類いではなく、自然とそうしているのだろう。受け取り、杯を傾ける。
「この『悪心影』……“第六天魔王・波旬”の酌を受けた栄誉を、な……くくく」
艶然と笑う娘から杯を受け取った掌は、やはり獣。段々と甦ってくる、その意味。嗚呼、嗚呼、そうか、と。酒精を得て高速回転を始めた思考が。
そう、故がある。何故、自分がそんな姿をしているのか。何故、そんな姿をしている自分が……『輝く捩れ双角錐』の悪夢の中に居るのか。
単純な話だ、実に単純。ならばこそ、致命的な話ではあるが。
「……不味い、早く帰らないと」
焦燥が満ちる。不味い、非常に不味い、と。勿論、ワインは最高に近い美味。不味いのは、外の状況だ。
記憶が確かなら、もし、気付かれでもしたら……笑えない事態に陥るだろう。
「……なんじゃと、貴様。今、何と申した? |儂《わらわ
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