2部分:第二章
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なる。もう手遅れだった。
「このパスタに合うワインは思いつくけれど」
それはあるのだった。しかしだった。
それを手に入れることはできない。このことにジレンマを覚えていた。どうしようもないまでに。そしてもう一つ問題があるのだった。
時間がないのだ。もう。携帯のメールで希はもう帰るとメールしてきている。それを見るととても時間がない。最早どうしようもなかった。
「参ったな、ワインなしのパスタか」
それは彼にとっても希にとっても完璧なものではなかった。かろうじて半分がある、その程度でしかないものであった。そう、半分でしかないのだ。
「仕方ないな。適当にビールでも出すかな」
一応は用意してあるのだった。しかしあくまで一応である。そのことに嘆息するしかなかった。そうして彼女がそろそろ帰るかと思っているとだった。
家の扉が開く音が聞こえてきた。そうして台所にもその声が聞こえてきたのだった。
「只今」
「ああ、おかえり」
まずはこうその声に応えるのだった。
「今帰ったんだね」
「ええ、ただね」
不意にその声が寂しいものなったのがわかった。大人の女のその声がだ。
「御免なさい」
「御免なさいって?」
「パスタ買おうと思っていたのよ」
やって来たのは背の高い女だった。大きな目は少し吊り上がり気味で口はやや大きく微笑んだような形になっている。鼻は小さく然程目立たない。全体的に目が目立っておりそれに合わせたかのような切れ長の眉と長い茶色がかった髪が印象的である。言葉には少し秋田訛りがある。正好も背は高く顔立ちは彫がある男前と言ってもいい顔だがその彼と似合っていると言える大人の女であった。
「パスタね」
「パスタを?」
「けれど御免なさい」
その秋田訛りの言葉でまた謝ってきた。申し訳なさで満ちた声で。
「それ、忘れちゃったのよ」
「またどうして?」
「ワイン探すのに夢中で」
だからだというのだった。
「ワイン。いいのがあったのだけれど」
「ワインはあったんだ」
「ええ。バローロ」
そのワインの名前を今言う。ピエモンテ産のイタリアの銘酒である。
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