御前が嫌いだ
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一年生の一人が声をかけてくる。千里よりも少し背の高い少女だ。
「あ、何でもないの。じゃあ練習を始めましょう」
「はい!」
女子部員も練習を始めた。裕二は顧問と一緒に練習に向けての作業をしていた。
千里のインターハイに向けてのトレーニングは続いていた。それと共に裕二もマネージャーとしての仕事に忙しかった。この部の顧問は優しいが細かい人物で何かと裕二に作業を頼むのだ。
「まあマネージャーは僕一人じゃないからいいか。部長もいるし」
部長は裕二と千里と同じ三年の男子生徒である。バタフライの選手だ。落ち着いてしっかりした人物で皆からの信頼は厚い。気配りも出来祐二達の仕事も手伝ってくれる。部活も終わり詰襟の制服に着替え一人部室で佇んでいた。彼の他はもう殆ど帰ってしまっている。一人を除いて。
「だからってさぼるんじゃないわよ」
そこへその一人が入って来た。千里である。練習を終えセーラーの制服に着替えている。
「じゃあ御前も優勝してみろよな。何だかんだ言っていつも二位どまりのくせに」
売り言葉に買い言葉で裕二も返す。
「言ってくれるわね、今度は絶対優勝してやるわよ」
千里が両手を腰に置いて言い返した。
「出来るのかよ、一位のあいつは強いぜ」
千里がいつも負けているのは隣の市にある私立中学の生徒だ。彼女より更に速い。
「やってやるわよ、絶対に」
「無理だね、ム・リ」
裕二は意地悪そうに言った。
「言うわね、じゃあもしあたしが勝ったらどうするの?」
千里は彼を睨んで言った。
「その時は御前の言う事何でも聞いてやるよ」
再び裕二は意地悪く言った。どうせ勝てる筈がない、いやむしろ負けてしまえと思っていた。
「・・・その言葉覚えといてね」
千里はキッと見据えて言った。
「ふん、覚えといてやるよ。あ、御前が負けた時は何もしなくていいからな」
「何でよ」
「どうせ負けるに決まってるからな」
言い過ぎたかな、と思った。そうしたら千里はいつも手にしたカバンや棒、無ければ手の平で叩こうとしてくるのだ。
裕二は身構える用意をした。いくら何でも女の子に手を上げる事はしない。一発防いで逃げるつもりだ。いつもそうしている。
(あれ?)
ここで裕二は不思議に思った。千里は叩こうと向かって来ない。それどころかそれまで裕二を睨んでいた視線を緩めている。
(どうしたんだ?)
拍子抜けした。しかし一応気だけは張っておく。いきなり来るかも知れないからだ。
「いいわ、じゃあ絶対優勝してやるわ。あんたにあたしの言う事聞かせる為にね」
意外に思ったがまだ言い足りない。一言追い打ちをかけた。
「まあ頑張りな。期待し
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