御前が嫌いだ
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あいついつも僕にばかり突っかかって来るんだよ」
裕二はよく友人達に漏らした。首を傾げる者が殆どだったが意味有りげな笑いを見せる者もいた。
「何でだろうな」
「?」
裕二にはその笑みの意味が解からなかった。女の子達はもっと良く理解していた様であったが面白がっているのかあえて彼に言おうとはしなかった。
学年がまた変わった。三年になった。中学での部活は七月までであり最後のインターハイがあった。
この中学校の水泳部はそこそこ有名であった。千里もクロールの選手であり注目されていた。それだけに練習に余念が無い。
「何だかんだ言っても泳ぐのは速いな」
プールサイドでタイムを見ながら裕二は言った。充分全国大会を狙えるレベルだ。
部活が終わり家に帰るとトレーニングをしている。サーキットやランニング等だ。一人で走るのは物騒だからと親と一緒に走っている。
「あいつの親父さんもご苦労さんだな」
窓の外から見ながら裕二は呟いた。千里の父は娘の為に付き合っているのだ。それこそ雨の日も雪の日も。たとえどの様な日でもトレーニングを続ける娘と共に。そのせいか彼はもう中年だというのに引き締まった身体つきをしている。
「もっともあんな色気も無いし可愛くもない奴を相手にしようなんて物好きもそうそういないだろうけどな」
黒いジャージを着てランニングをする千里を見下ろしながら呟いた。
「ちょっと、好き勝手言ってくれるわね、覚えてなさいよ!」
千里がこちらを振り向いて怒鳴った。
「しかも耳までいいよ」
今度は聞こえないように小声で呟いた。
そうこうしている間にもインターハイは近付いてくる。千里は自分のトレーニングや調整だけでなく後輩への指導も積極的に行なっている。裕二は自分に見せる滅茶苦茶な攻撃性とはうって変わって優しく丁寧に教える彼女を見て不思議に思った。
「何なんだよ、後輩には優しいじゃないか」
ジャージ姿でストップウォッチやビート板の用意をしながら裕二はその光景を見ていた。
見れば競泳用の水着に千里のスリムな体型が現われている。よく見れば手足が長く整った体型である。
「・・・こうして見るとわりかし可愛いな」
小柄なのでそれが余計映える。
「性格が良ければな、ほんと」
裕二はどちらかというと顔や体型より性格を重視するタイプである。彼にとって千里の性格は最悪だった。
「お〜〜い佐藤、ちょっと来てくれ」
向こうから顧問の声がする。その声に従い裕二はプールサイドを後にする。
「・・・・・・・・・」
千里はそれを無言で見ている。普段の喧嘩腰の態度とは違い何処か優しい。女の子の目だった。
「先輩、どうしたんですか?」
不意に
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