≪アインクラッド篇≫
プロローグ リセットの享受
プロローグ 郷愁の日々 その参
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という消極的な安心感でゆっくりと五感が回復する。しかし回復した聴覚が捕らえた言葉も衝撃的だった。
『――――らゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らのアバターは消滅し、同時に』
『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
冷静を取り戻そうとした俺の意識を殺さんとするその一言は、やはり金属質な色合いを帯びていた。
しかしその言葉が俺にもたらしたのは≪恐慌≫でも≪発狂≫でもなく≪違和感≫だった。
―――ヒットポイントがゼロになった時に死ぬ、それはまるでゲーム世界の主人公達のような―――
違和感が消失するのと同時に、俺が感じていたの≪死の恐怖≫は新たな推測により薄らいだ。
俺はつい先程まで現実に起きるであろう事柄に恐怖した人間だった。しかし、この時俺は自分何処にいるか、何者なのかを思い出した。
――そう、ここはゲームの世界。俺が昔から望んでいた世界。一度は行ってみたいなと思っていた世界。
今がどういう状況なのか、やっと分かった。
俺が何をすべきなのかも、やっと分かった。
俺の立ち位置がなんなのか、やっと分かった。
あの天才茅場晶彦が望んでいることも、やっと分かった。
「ふぅー。なるほど、なるほど。勘違い、か。誘拐事件、だとか大量虐殺、ではない、のか」
ポツポツと言葉を区切りながら、小声で呟いた独り言は、期待していた効果を持って、俺の恐怖を和らげた。
落ち着きを取り戻し、奇妙な安心を得た俺にGMの言葉が耳に入ってくる。
茅場晶彦は『このゲーム世界を使って別の大きな目的を果たす』のではなく『アイングラッドを世界の一つとして確立させる』つもりなのだ。
俺達こと一万人のユーザーを≪プレイヤー≫でも≪人質≫でもなく≪この世界の住人≫として茅場晶彦は設定したのだ。
発想自体は至極共感できるものである。重度のゲーマーなら一度は考えるようなこと。それを行うのは狂気としか言えないが…。
そういえば茅場晶彦はインタビュー動画でもそういう理想に随分と拘っていた。随分と拘り、そして実現させた。
≪フルダイブ≫や≪ソードスキル≫といった強い拘り、この死の宣告もきっとその拘りの一つなのだろう……。
それ以降、GMから流れてくる言葉はどれも俺をかつてほどの不安や恐慌には至らしめなかった。むしろ流れてくる言葉はすべて、先回りして思いついた。
とある一言を除けば。
『それでは、最後に、諸君らにとってこの世界が唯一の現実である証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
途端、周囲から電子的な鈴の音のサウンドエフェクトの群れが広場いっぱいに響き渡る。ウィンドウを開く音だ、と思った
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