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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
闖入劇場
第百一幕 「緊急事態だよ?全員集合!」
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――更識の家名は伊達ではない。簪は既に盗聴器や本音経由の情報で現在が非常事態であることくらいは理解していた。
だからこそ急いで治療して、敵に備えなければいけないというのに――

「ユウ……!」
「…………」
「ユウ!」
「…………」

呼びかけても呼びかけても、帰ってくるのは沈黙ばかり。
どうすればいいだろうか。自分としては精いっぱいに声を張り上げているのだが、反応が全くない。かといってビンタでもかまして正気に戻るよう促すのは気が引ける。うんうんと考えた簪は、ふとユウの耳を見た。
耳というのは意外と神経が過敏であるらしい。怪我でボロボロの身体は駄目でも、耳を引っ張れば少ない労力でユウを気付かせることが出来るかもしれない。しかし――耳を引っ張ったら間違いなく痛い。簪はユウの目を覚まさせたいのであって、痛がらせたいわけではないのだ。

「どうしよう――」

恐らく鈴なら迷いなく耳を引っ張ったであろうこの状況に置いて、簪は困ったように眉をしかめた。




一方のユウは、簪の目算通り呆然自失の状態だった。

近くに人がいて、声をかけていることはなんとなく理解している。
だが、それに返答して明るく振る舞おうという日常的行動を行う意志は、一切生まれない。
彼にとってはそれほどのショックを受けたのだ。自分の立つ足場が無残にも崩れ去ったと言っても過言ではない。それほどに大切にしていた思いを、経った一度の襲撃で全て崩されてしまったかのような気分だった。夢の残骸を目の前の呆然とする――起こった現実を現実として受け入れられないかのように。

(才能もない、全部ひっくり返す頭脳も無い、覚悟も全然足りてない……そう、なのか?)

思い出すのは先ほど自分に敗北を叩きつけた女性の存在。
ユウにとって才能がない事は承知していた。天才的な頭脳を持っていないことも承知している。だが――覚悟が足りない、という言葉だけはユウの心に鋭く突き刺さった。

いつだって本気で生きてきた。絶対に前へ進むと意地を張ってきた。

負けても前へ進む覚悟。諦めないための覚悟。

その覚悟が自分の努力をいつだって支えていた筈だ。

無駄ではない。いつか必ずこの思いが兄に届き、超えることが出来る。
そう固く信じて今まで一歩一歩を踏み出してきた。
ISの操縦技術だって段々と専用機持ちに近づきつつあるし、兄相手の組手も昔より格段に保つようになった。成長は続いている――なのに。なのにあの人は、それでは足りないと言った。事実、勝負は完全に敗北した。

(駄目なのか、今のままじゃ?何で、何が……?)

努力する中で、ただがむしゃらになんにでも食いつくのでは意味がないと感じた。
それはユウが反抗期時代を振り返って一番強く感じたことだ。自分で何で
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