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リトルマーメイド
7部分:第七章
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第七章

「実家のね。その島のね」
「何かあったの?」
「親戚が死んだのよ」
 それでだというのである。
「それでね。後は旅行に行って」
「それでだったんだ」
「そう、シンガポールに行ってたの」
「また随分遠いところに行ってたんだね」
「遠いかしら。飛行機だったらすぐよ」
「そうなんだ」
 これはまた明信には実感のないことだった。彼も家族で海外旅行に行った経験がある。韓国や台湾にそれぞれ一回行っているのだ。
 それでこう話すがだ。それでもだった。
 実感が湧かないのだった。シンガポールが近いと言われてもだ。
 それで首を傾げさせる。そこにであった。
 また摩耶が言ってきたのだった。
「それで夏はいなかったのよ」
「そうだったんだね」
「御免ね、急にいなくなって」
「いや、それはいいよ」
 いいというのだった。
「別にね。そっちにも事情があるんだし」
「有り難うね。そう言ってくれて」
「それもいいよ。ところでさ」
「ええ。ところで?」
「あの話覚えてる?」
 話が一段落したところでまた話すのだった。
「それで」
「ああ、あのことね」
「ほら、泳ぐのの競争だけれど」
「この学校クラブあるわよね」
 摩耶はこんなことを言ってきた。
「それとスイミングスクールと」
「どっちもあるよ」
「クラブに水泳部あるわよね」
「うん」
 明信は摩耶の問いにそのまま答えた。
「あるよ。ちゃんとね」
「じゃあそこに入って」
「あっ、ちょっと待って」
 ここで摩耶の言葉を遮って話したのだった。
「僕が入っているかどうかは聞かないのかな」
「いえ、入ってるでしょ」
「どうしてそう言えるの?」
「何となくね。直感でね」
「それでなの」
「そうよ。けれどその通りでしょ」
「まあね」
 その通りだとだ。摩耶に対して答えた。
「それはね」
「あれだけ泳ぐのが上手だとそうよね」
「そこから見た直感だったんだ」
「そういうこと。それでね」
 あらためて彼に問う摩耶だった。
「私どっちにも入るから」
「それでなんだね」
「決着つけましょう」
 にこりと笑って明信に言ってきた。
「それは嫌かしら」
「いいね」
 明信はだ。その摩耶に顔を向けて答えた。
「それじゃあね」
「よし、言ったわね」
「言ったよ」
 お互いに売り言葉に買い言葉の調子にもなっていた。
「今確かにね」
「言っておくけれど」
 摩耶は少しばかり得意げな顔になって話す。
「言った言葉は返ってはこないわよ」
「そっちこそね。わかってるよね」
「勿論よ。それじゃあね」
 こう話してだった。二人はまた競争をすることを誓い合ったのだった。夏は終わったがそれでもだ。またこれからはじまるものがあった。

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