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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第19話 器量
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てくれたことに、俺は天に感謝ではなく恨みを言いたくなった。自白してくれたリンチは、親しげに俺の肩を抱くと、自分の机の上を指さして言った。
「見てくれ。主に俺と貴官の前任者のお陰でこの有様だ。差し迫って、机の上の整理から俺を補佐してくれ」
「は、はぁ……」
「恥ずかしながら、俺は実戦での指揮にはそれなりに自信があるつもりだが、こういう細かいことは苦手でな」

 だったらエル・ファシルで敵を撃退した後に反転離脱して後背攻撃なんか受けるなよと言いたかったが、命令は命令だ。とりあえず同じ大きさの書類を纏め、机の端に積み上げた後、備え付けの給湯室から雑巾を持ってきて机を拭き、空き缶を捨て、不吉な形をしたチョコレートを容赦なくゴミ箱に叩き込む。チョコレートの動きに『あぁ……』とかリンチは呻いていたが、聞かなかったことにした。綺麗になった端末机に、先ほど積み上げた書類の表紙を斜め読みして大まかに分類し、さらに日付順に積み直して机の右半分に並べておく。ここまでで一〇分。さらに給湯室の整理をしてコーヒーを入れるのに五分。ようやく俺が見てもなんとか格好がつく司令官室になった。

「いや、助かった」
 司令官席にゆったりと座って俺の入れたコーヒーを傾けつつリンチは、かなりイラついている俺にさらにイラつくような台詞をのたまいやがった。
「……申し訳ありませんが、この司令部には従卒はいないのですか?」
「それが先週から産休に入ってしまってなぁ……男なんだが産休を取るとかいいおって。まぁ今のところ海賊も外縁流星群も大人しいから、ゆっくり女房孝行してこいよ、と言ってしまってこのザマだ」
 ベレー帽を脱いで頭を掻くリンチは笑いながら続けた。
「後方の、安全圏に位置する当艦隊司令部の要員は僅かでな。あくまでも我々は実働部隊だから、こういった雑事に皆おっくうで……後方勤務スタッフも基本的に地上勤務だから、残業してはくれんのだ」
「……はぁ」
「今、首席参謀は軌道上のドックに行っている。夕刻には地上に戻ってくるから、その時スタッフを紹介しよう……えぇと呼び出し番号は……」
「この番号ですか?」
「おぉ、そうだ。すまん、すまん」

 がはははと笑うリンチに、俺は笑みを浮かべつつ心のなかで不信感を募らせた。ドーソンのように神経質な男ではない。むしろ大らかな性格だ。怠け者准将といったところだろうが、少壮気鋭といわれる以上、ただの怠け者ではないはずだ。一応デスクワークでもの功績を挙げているはずだが、もしかしてこの方面はダメなのか。

 疑問がわずかに氷解したのは、やはり全てのスタッフが揃ってからだった。星域防衛司令部人事部に辞令を提出し、もはや半分棺桶に足を突っ込んでいるような定年寸前の司令官に挨拶し、他の巡視艦隊司令官にも一応挨拶して夕刻警備艦隊司令部に戻ってき
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