第19話 器量
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火力が充実していても出足の遅い戦艦に辺境航路の警邏など無意味だし、戦闘艇による細かい警邏を必要とする星系内を駆逐艦で代行すれば、一体何隻増やせばいいのか見当がつかない。とりあえず過去の同盟軍人がそれなりに考えて、苦心してこういう形になってしまったと今は考えるしかないだろう。
さて俺の仕えるべきリンチ准将は、第七一警備艦隊の司令官だ。戦艦八九隻、宇宙母艦一〇隻、巡航艦二三一隻、駆逐艦一五五隻の計四八五隻、兵員約六万を率いている。少壮気鋭で活力に富み、同僚となる二人の巡視艦隊指揮官より統率・用兵の面で優れており、上部組織であるケリム星域防衛司令部からも、編成上の上部組織である宇宙艦隊司令部からも信頼が厚く、数年のうちに『少将』『星域防衛司令官』に昇進すると噂されている。
エル・ファシル星域で油断から致命的なミスを犯し、民間人を見捨てて逃亡したという、民主主義国家の軍事指揮官としてあるまじき行動。さらには金髪の孺子の提案に乗って、クーデターを示唆するという大罪。人間も一皮剥ければ、どこまでも卑劣になれるという見本とも言うべき男の、それが『現在の』評価だ。
「なにか、仰いましたか?」
惑星イジェクオンの郊外にある星域防衛司令部内で、俺を案内している女性兵曹長が振り向いて聞いてきた。さすがに同僚も同期も友人もいないここで意識を飛ばすのはマズい。日本人的笑みを浮かべて、俺はベレー帽の位置を直すふりで兵曹長の問いをごまかした。
「こちらです。どうぞ」
兵曹長が敬礼し、廊下の向こうに消えて行くのを確認してから、俺は一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、司令官公室のベルチャイムを押す。ジーっというベル音と共に、拡声部から「入れ」と強い口調での命令が聞こえてくる。気合いの入った、自信にあふれる男の声だ。俺は扉を開けて中に入る。
「中尉、よく来てくれた」
司令官公室にいたその男……アーサー=リンチ准将は、仕事の手を止め、席から立ち上がり歓迎するように両腕を広げて俺を迎え入れた。机の上は書類や資料が散乱しており、コーヒーの空き缶と不吉な形をしたチョコレートが無造作に寄せられている。
「申告します。この度、第七一警備艦隊司令官付副官を拝命いたしました、ヴィクトール=ボロディン中尉であります」
「おう、ご苦労。第七一警備艦隊司令官のリンチだ。これからよろしく頼む」
俺の敬礼に一瞬戸惑ったリンチは、慌てて髪を梳かしてから答礼する。同じ髭面でも原作のように精神的にくたびれた感じではない。肌は仕事疲れだろうか少し張りがなかったが、目にも口調にも鋭気が含まれている。
「グリーンヒル先輩からな、期待の俊英と寄越してくれると聞いて、到着を楽しみにしていたのだ」
……俺をここに寄越した人間の名前を、リンチ准将閣下は問われるまでもなく明かし
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