第四部五将家の戦争
第五十三話 変わりゆく日々に
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らいならば多少、皇都から離れていても別の鉱山に人を回すだろう。
「この時期にそんな話を聞くのはぞっとしませんな」
高橋が顔を顰める。
「愉快なことばかり語るのは欺瞞だと思いませんか?
それに今はまだ可能性の話です、ここで貸し付けていただければ何も問題なく増産が進みます。そして利益も増える――ほら、これは愉快な話ですよ」
不敵に微笑する芳峰子爵にさしもの高橋も苦笑するしかなかった。
「これは失礼いたしました」
「それで幾らほど貸し付けてくれるのかね?こちらとしては幾らあっても足りないのだが」
子爵は泰然としたまま尋ねる。
「そうですなぁ――」
高橋がつるり、と禿頭を撫でた。
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「――御苦労だったね。芳峰夫妻をどう見るかね?」
馬堂豊長は満足そうに帰っていった芳峰夫妻を見送りながら高橋に訊ねた。
「優良物件――でしょうね。」
高橋は冷徹な目に戻っている。
「水軍統帥部の友人や、回船問屋の方から聞く限りでは、芳州は有事の現在、皇都と東州と内地を結ぶ航路のなかで最も安全な航路で結ばれています。
仮に万が一鉱山からの供給が止まっても工業やら運輸やら幾らでも資金の回収は出来ますからな。人が集まると云う事はいくらでも金を稼ぐ方法があるという事です。
鉱山街の経営に関しても事故の危険性を重視している事はありがたい。」
「成程、ならば問題は――」
「――御国が残るかどうか、ですね。
御国の為にも、我が三倉屋の為にも子爵閣下方には、鉄を供給してもらわなくては困ります」
ふ、と何かに気付いたかのように初老の商人は嘆息する。
「――あぁいやはやなんとも。私どもは単に商売をしていたいだけなのになんともままならぬものですな。太平の世の前も見知っていたつもりでしたが――」
「国難、という事なのだろうな。諸行無常といえど戦争までも悪い方に様変わりするのだからやるせないものよ。いや、これは儂が過去を理想化しすぎているせいかもしれんな。どのみち戦争なぞ碌なものではない」
豊長は顎を掻いて嘆息する。
「まぁ老け込むつもりは当面ない。それより今日は〈寄合〉だったな?」
「流石にお耳が早い。えぇその通りです。私共も昨年ようやく顔を出せるようになりました」
〈寄合〉とは皇都でも指折りの大店でなおかつある程度の信用を得られないと呼ばれることもないという大商人たちの利益調整組織であり、俗にいう“財界”の意思を決定する場でもある。
もっとも、事前に議題については回状が回されてそれぞれが意思を決めるものとなっているので〈寄合〉自体は各々が意思表明するだけであり、余程の意見の衝突がない限りは基本的に半刻ほどで終わってしまうのだが。
「なに、豊守も色々と苦労しているようでな。天下はどこも忙し
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