第18話 嵐の後始末
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「やっぱり……あの時はお礼もお詫びもせずごめんなさい。私の事を運ぼうとしたホームで、フレデリカが貴方のことひどく罵ったあげく、腿を蹴り上げたでしょう?」
「九歳の少女の蹴り上げなど、痛くも痒くもありません。それよりご無事でなによりでした」
俺が夫人に応えると、まったく初耳だという壮年と少女が驚きの表情を浮かべている。俺もフレデリカがボロディン家に来た瞬間にそれは分かっていたが、あえてフレデリカが遠回しに拒絶したことから黙っていたわけで。グリーンヒルは唖然としているし、アントニナは『どうして教えてくれなかったのか』と完全にむくれている。
「……それとこれとは別だと、分かっているかね?」
「はい」
むくれるアントニナを連れて、グリーンヒル夫人がケーキと一緒に二階へと上がっていくのをよそに、俺とグリーンヒルはソファで対峙していた。
「……君は本当に怖い物知らずだな。亡きアントン=ボロディン中将もそうだったが、ボロディン家の血はそうにも荒々しいものなのかね?」
「小官は血液や遺伝を根拠とした性格というものは信じておりません。性格構築はまずもって幼少期における教育環境によるものだと思っております」
「なるほど。実に現実的な発想だ。娘の頬とひっかき傷の保障として聞きたいが、君に怖いものはあるのか?」
「チョコレートの中に巧みに隠されたアーモンドと、ボロディン家の平和な未来です」
俺の正直な返答に、グリーンヒルは一瞬目を丸くした後、膝を叩いて含み笑いを浮かべている。
「君の前では艦隊司令官も艦隊参謀長も怖くない存在と言うことか。出世欲とか名誉欲とかは、君にとってはたいしたことがないものだと?」
「出世も名誉も俗人としての欲求は持っています。ですが家族の平和と自由と安全、それを支える国家の安全に比べればたいしたことはありません」
「国家の安全……君は政治家かそれとも統合作戦本部長にでもなったつもりなのかね?」
俺はこのグリーンヒルの質問に、猛烈に腹を立てた。目の前で良い香りのする四客のティーカップを底浚いして床に叩き落とし、石作りの上品なテーブルの上に足を載せて踏みつけたいくらいに……だが小心者の俺は、フィッシャー中佐直伝の表情管理をフル活用して、どうにか心を落ち着かせると、とびきりの笑顔で応えることしかできない。
「勿論です。常に高く広い視野で考えることが戦略研究科出身の軍人の、生涯の任務ではないでしょうか?」
「……君は本気でそう思っているのか?」
数分の沈黙の後、グリーンヒルは紅茶を二杯飲んだ後に、そう応えた。今手にある三杯目を持つ手は、俺にも分かるくらい震えている。
「はい。本気です」
「道理で怖い物知らずなわけだ。立っている場所が違うわけだからな。なるほどシトレ中将閣下が、人事に干渉してでも手元に置い
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