第18話 嵐の後始末
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宇宙歴七八五年 八月 統合作戦本部
正直申し上げまして、嵐はまったく収まっていませんでした。
アントニナは俺の余計な……間違ったかもしれない……いやたぶん間違った意見を鵜呑みにし、翌日早々フレデリカに喧嘩を売った。最初はいつものように挨拶から始まり、次にフレデリカの被った分厚い猫の皮を鋭く指摘し、席から立ち上がったところを先制平手打ち。結局、教師が仲裁に入るまで三ラウンド八分三五秒。アントニナのTKO勝利……と折角綺麗な顔に大きなくまと絆創膏を貼り、ストレートのブロンドをぼさぼさにしてしまったアントニナ本人が拳を挙げ、これまでも見てきた晴れ晴れとした笑顔で証言した。
当然のことながら先に手を出したこと、挑発したことにグレゴリー叔父はカンカン。アントニナを激烈に叱りつけたのだが、殊勝に黙って聞いていたアントニナの行動にかえって不審を抱いて聞き、その理由を聞いて深く肩を落としたそうである。誰に入れ知恵されたのかというグレゴリー叔父の追求には、頑として応えなかったのは……さすが幼くても『女は度胸だわ』と感心せざるを得なかった。
だから薄々と俺の入れ知恵だと分かっていたグレゴリー叔父から、妹達の見えないガレージで一撃貰ったのは仕方ないと諦めている。ていうか一撃で済んで良かったと心底思った。
そして現在。小官ことヴィクトール=ボロディン少尉は、傷だらけの勝者?である義妹であるアントニナを連れて、ハイネセンで評判のケーキ店で逸品を購入し、メイプルヒル(グリーンヒルのクセに!!)にあるグリーンヒル少将宅を訪れたわけで。
「……なるほど。理由は伺った」
ボロディン家とはまた趣の異なった広めのリビングで、俺とアントニナは腕を組んでいるグリーンヒルを前にしていた。俺の見るからに現在のグリーンヒルは少将ではなく、大切な娘を殴られたただの父親であった。
「だが拳を挙げさせたのはいささか野蛮であるとは思わなかったのかね?」
「正直、示唆した自分もそう思います」
「……結果として良ければ、それまでの過程はどうでもいいと、君は思うか」
「思いませんが、他に方法が思いつきませんでした」
「なんという浅知恵だ。軍人である君が、教育者にでもなったつもりかね?」
悪いですがその台詞、黒いクソ親父(=シトレ中将)にも言ってやってくれませんかね、と内心で思いつつも、俺はソファから立ち上がり、深くグリーンヒルに頭を下げた。グリーンヒルは腹に据えかねているようだった(それは当然だ)が、グリーンヒルの横に座っていた夫人が、俺の顔を見て小さく溜息をついてから口を開いた。
「もしかして二・三年前、私がハイネセン第二空港の地下駅で発作を起こした時、助けていただいた士官候補生の方じゃありませんか? 確か、ヴィクトールさん」
「……はい」
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