アインクラッド 後編
優しさに包まれて
[10/10]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
いる。よく見ればその他のパーツもマサキ君の落ち着いた雰囲気と相まって、クールで大人びたイメージに整っていた。冷めかけたコーヒーカップに手を伸ばしながらその顔を覗いていると、不思議と心臓がトクトクと高鳴って――
「……何か?」
顔を上げたマサキ君と目が合った。
「へっ!? う、ううん、なんでもない!」
慌ててカップに残ったコーヒーを飲み干す。自分でも、頬が真っ赤になって熱を帯びているのがよく分かる。何とか話題を摩り替えようとして、わたしは軽く手を合わせた。
「ごちそうさまでした。えっと、コーヒーありがとう。とっても美味しくて、びっくりしちゃった。こんな趣味があったんだね」
「下手の横好きだ。と言っても、作るのはコーヒーメーカーだがな」
眉一つ動かさずに返すマサキ君。その姿からさっきの化学実験みたいなコーヒーの作り方を連想してしまって、わたしはまた噴き出してしまった。
「……何か?」
「ううん、なんでもない」
笑い出すのを堪えたまま、首を振る。その後はまたお互いに無言の時間が続いたけれど、マサキ君の顔を見ていると退屈はしなかった。一度伸びをして、ソファに背中を預ける。
「ん……」
すると、途端に瞼が重くなった。ダメ、ここで寝たりしちゃ……。頭の中ではそう思うものの、耳元で囁くような睡魔に誘われ、視界は徐々に狭まっていく。
SAOに入ってから、リラックスして熟睡なんてしたことがなかった。いつも怖くて、不安で、寂しくて……震えながら自分の体を抱きしめて、ほんの数十分だけぎゅっと両目を瞑っていたら、いつの間にか少しだけまどろんでいて。そんなことの連続だった。それが今は、これ以上ないくらいに自然に眠気がやって来ている。
とにかく、自分の部屋に戻らなきゃ……そう自分に言い聞かせて、最後の気力を振り絞って立ち上がろうとして――その瞬間、ぼやけた視界にマサキ君の瞳を見つけた。クールで、理知的で。でもその奥に、本の少し、優しくて、暖かい光が覗いて……。
――何だか、ちょっとだけマサキ君のことが分かったような気がする。そんなことを思った瞬間、わたしの全身から力が抜けた。じんわりと、心の中から全身が温まるような感覚を味わいながら、するりと、わたしの手から意識が零れ落ちた。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ