アインクラッド 後編
優しさに包まれて
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ッセージを打っているらしく、ホロキーボードを恐ろしい速さでタイプしていた。
「……悪かったな。何の相談もなしに巻き込んで」
途中、マサキ君は指の動きを止めると、突然そんなことを言った。彼の顔そのものは手元のウインドウを見下ろしていて、切れ長の両目から放たれる冷ややかな視線だけが眼鏡と前髪の間からこちらを覗いていた。わたしは慌てて頭を振った。
「ううん、全然! 今日一緒に行くって言ったのはわたしの方だし……それにね、あの時マサキ君がシリカちゃんと一緒に行くって決めてくれて……。何でかは分かんないけど、ちょっぴり安心したんだ」
後半、全く自分で意図していなかった言葉が飛び出して、わたしは言った後自分で驚いてしまっていた。けれど不思議なことに、その言葉が嘘やでまかせだとは思えなかったから、わたしは訂正しようとはしなかった。
「……そうか」
マサキ君は相変わらずの事務的な口調で言うと、視線を元に戻して再びキーボードを叩き始める。そのまま沈黙が続き、わたしが何か話題を探した方がいいのかな……等と考え出した頃、不意に部屋のドアがノックされた。丁度作業を終えたらしいマサキ君がキーボードを消して席を立つ。わたしが何とはなしに首を傾けてドアの外を覗くと、可愛らしいチュニックを身にまとったシリカちゃんがあわあわと両手を動かしながら立っていた。その瞬間、わたしは先ほどの一件を思い出して、心臓がドキリと緊張に震える。
「ええと、その、あの――よ、四十七層のこと、聞いておきたいと思って!」
何処かで聞いたような理由を、途中何度か詰まりかけながらも何とか言い切ったシリカちゃん。するとマサキ君は何を思ったのかわたしに振り向いて、座ったまま彼を見上げていたわたしと目が合った恰好となった。彼は数秒間静止してから、顔色一つ変えずに言った。
「済まないが、俺は少し人と会ってくる。部屋は自由に使ってくれて構わないから、打ち合わせは二人でやっておいてくれ」
「え、えぇっ!?」
あまりにも唐突な宣告にわたしは思わず声を上げてしまうが、マサキ君は気にした風もなくシリカちゃんを部屋に入れると、自分はさっさと出て行ってしまった。取り残されたわたしがぎこちなく顔を動かすと、全く同じ動作をしていたシリカちゃんと示し合わせたかのように目が合った。途端、緊張やら罪悪感やらが胸の奥からこみ上げてきて、お互いの顔に張り付いた引きつり笑いと気まずい沈黙が部屋に横たわる。
「え、えっと……とりあえず、座って? ……って、わたしが言うのもヘンだけど……」
「は、はい……」
先ほどまでマサキ君が座っていたソファを勧めると、シリカちゃんは人形みたいに頷いてちょこんと浅く腰掛けた。
「確か、四十七層のこと……だった、よね?」
「は、はい
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