アインクラッド 後編
優しさに包まれて
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た結果、今わたしとマサキ君は彼女の案内でレンガの敷き詰められた大通りを歩いていた。
「お、シリカちゃん! 聞いたよ、フリーになったんだって? だったら明日からウチのパーティーに入らないか?」
先頭を歩くシリカちゃんが、重そうな銀色のプレートアーマーを着込んだ一人の男性プレイヤーからそう声を掛けられたのは、大通りから転移門広場に入った直後だった。その声を皮切りに、「いやウチが」「ウチなら美味しいスポットに連れてってあげるよ!」といった声が人と共に次々と集まり、あっという間に周囲には軽い人だかりが完成する。
「う…………」
咄嗟に助け舟を出そうとするも、シリカちゃんに殺到する人々の勢いに押され、思わず一歩下がってしまう。
――怖い。
直感的に、そう感じた。以前、幾つかのパーティーから同時に誘われたときの光景が、今のそれと一致していたように見えて。
その時のわたしは、笑顔を振り撒くのに必死だった。自分の寂しさを紛らわしたくて、八方美人を演じていた。だから、人に囲まれるのが嬉しかった。
けれど、今は違う。結局わたしは独りだったことに気付いてしまった。今までしてきたことが、自分のエゴだったと分かってしまった。だから、一体どんな顔であの人ごみに割って入ればいいのか分からなかった。そんな自分を誰かに見られてしまうことが怖かった。結局自分のためじゃないと何もできない自分が、もう気がおかしくなってしまいそうなくらいに嫌で嫌で――
「おい」
「ひゃいっ!?」
はっと我に帰ったわたしは慌てて口を両手で塞ぎ、飛び出してしまった素っ頓狂な声を押し戻しながら振り返る。と、すぐ前にマサキ君の顔があった。気付かれたわけではなかったことに安堵しつつ、今の声が聞かれていなかったかとそのままキョロキョロ。幸い、誰も不審がらなかったみたいだった。
わたしの顔が正面に向き直ると、マサキ君は言う。
「悪いが、先に宿を取っておいてくれ。こっちを片付けたら追いつく」
そして宿代と思われる数百コルを掴ませると、自分はさっと踵を返して人だかりに割って入っていく。後に残されたのは、一人立ち尽くすわたしと、様々な色の絵の具を全部筆で混ぜ合わせたみたいなぐちゃぐちゃの色をした感情だった。
数秒の黙考の後、わたしは唇を動かしながら振り向いて、ごちゃ混ぜの感情を置き去りにするようにして静かにその場を去った。最初はゆっくりと、そのうち小走りに。落とした視線の先で石畳を叩く足音は、後ろでざわざわと騒ぎ始めた人々の喧騒に掻き消され、最後までわたしの耳に届くことはなかった。
その後わたしは泊まる予定だった《風見鶏亭》という名の宿で部屋を借りると、その一階部分に設けられているレストランで二人と合流。二人と碌な会話もせずに夕食を手早く
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