アインクラッド 後編
優しさに包まれて
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メリットのためにこうしている」
少女からの警戒が込められた視線を受けて尚、マサキ君は微塵も動じることなく、抑揚のない事務的な口調で告げた。その答えを受けて、少女の視線が更に険しくなる。
「……ただ、一つ付け加えるとするならば……」
張り詰めた静寂を、マサキ君の声が破った。わたしからは彼の表情は窺えないけれど、何処か昔を懐かしむような声だった。マサキ君は少しだけ目線を上げ、何かを思い出そうとするように、長めの間を取ってから続けて呟く。
「……君のような少女と、昔、会ったような気がする」
「……え?」
鳩が豆鉄砲を食らったみたいに少女の視線から怪訝さが抜け落ち、呆気に取られたと言わんばかりにマサキ君を見――そしてそのすぐ後、少女は盛大に噴き出した。それを見たマサキ君の背中から、ほんの少しだけいじけたような雰囲気を感じ、わたしもつられて笑ってしまう。すると、その笑い声に気付いたらしく、顔を上げた少女と目が合った。
「えっ、あの……ひょっとして、エミさん、ですか……? 《モノクロームの天使》の……?」
「え、あ、と……う、うん」
わたしがぎこちなく笑いながら頷くと、少女は目を丸くして驚いた。その後また少し考ええるように黙り込むと、覚悟を決めたように頷いてペコリと頭を下げた。
「……よろしく、お願いします。助けてもらったのに、その上こんなことまで……」
少女は頭を上げ、自分のウインドウを操作し始める。マサキ君も先ほどからウインドウを弄っていたことから、トレードか何かだろうとわたしは推測した。
「あの……こんなんじゃ、全然足りないと思うんですけど……」
「金はいい。不自由しているわけでもない。それに、この装備は必要な投資だ」
マサキ君はそう言って、目の前を一度タップする。と、少女は恐縮そうにもう一度頭を下げた。
「すみません、何から何まで……。あの、あたし、シリカって言います」
「マサキ」
少女が差し出した手をマサキ君が握る。その後で、わたしにも右手が差し出された。
「えっと、エミ、です」
おずおずとその手を握る。その手は小さく華奢だったけれど、ほんのりと温かかった。
それを見届けると、マサキ君は森の地図を取り出して、街へ向かって歩き出す。その後にわたしたち二人が続く。
疑問はまだ胸の何処かに引っかかっている。けれど、握った手から伝わってきた温もりと少女が見せてくれた笑顔のおかげで、ほんの少しだけ、このままやるだけやってみようと思えたのだった。
片田舎の農村のような風情を漂わせる、第三十五層主街区。シリカちゃん――帰り道にそう呼ぶ許可をもらった――が現在この街を拠点としているらしく、わたしたちも折角なので同じ宿に泊まろうという話になっ
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