アインクラッド 後編
優しさに包まれて
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ぎると、《心アイテム》が《形見アイテム》に変化する。そうなれば、二度と蘇生は出来ない」
「そんな……!」
叫び声が、悲嘆で震えた。
現在の中層プレイヤーの平均レベルは大体四十前後。三十五層を狩場にしていたという事は、彼女のレベルはもう少し上なのだろうが、それでも四十七層で“安全な”ダンジョンアタックを行うには全然レベルが足りていない。もしそれをしようと思うのなら、ダンジョンそのものの攻略も考えてあと二日でレベルを10は上げなければならない。どう考えても不可能だった。
「そんな……」
同じ言葉を繰り返して、彼女は絶望を隠そうともせずに俯いた。受け取った羽根をそっと胸に抱き寄せる。透明な雫が、小さな顎から滴った。
ぎゅっと、わたしの右手に力がこもった。胸の奥が締め付けられる感覚。わたしは右の拳を胸元に抱き寄せ、失意に溺れる少女を見つめた。
今すぐこの手を差し伸べてあげたい。そんな衝動が心臓の辺りから湧き出てくる。……だというのに。結局、この手は最後まで動かなかった。助けてどうするの? 助けることで自分自身を誤魔化して、でもずっと独りのままで。いつかはまたそれに気付いて、泣き喚いて。それなのに、どうしてわたしは助けるの? ――そんな頭から降り積もる疑問に、全て押し流されてしまって。そして、そんな自分が、堪らなく嫌になった。
唇を噛み、手を握り締めたわたしの視界の片隅で、マサキ君が立ち上がる。このまま立ち去るのだろうと反射的に思った瞬間、わたしはつい先ほど、マサキ君が涙ながらに仲間の仇討ちを懇願する男性の話を聞きに行った光景を思い出す。ひょっとしたら、彼は彼女に手を差し伸べるつもりなのでは――不思議と、そんな期待めいた思考と一緒に。
するとマサキ君は、顔の前で何やら指を動かし始めた。直後、俯いていた少女が面食らったような表情でマサキ君を見上げる。
「あの……」
戸惑っているのが一目で分かる声で少女が呟くと、マサキ君は冷淡なトーンで言う。
「これで約5レベル分は強化できる。俺達も一緒に行けば、問題はないだろう」
「えっ……」
声が漏れたまま開きっぱなしになっていた口をそのままに少女は立ち上がり、マサキ君の発言を反芻し、その真意を推測するようにじっと顔を見つめる。しかしその試みは結局不発に終わったらしく、やがて少女は怪訝そうな顔で、
「なんで……そこまでしてくれるんですか……?」
と疑問を投げ掛けた。
デスゲームと化したSAOでは「甘い話には裏がある」のが常識。また中層でアイドルプレイヤーであった彼女の場合、下心のあるプレイヤーに迫られたことは一度や二度ではないだろう。だから、少女の反応はごく自然なものだった。
「君が今考えている通りだ。俺は、俺自身の
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