第五章
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第五章
「それは」
「おやおや。謙遜は駄目だよ」
「謙遜じゃないわ。そんなのが本当に食べられるなんて」
「美味しいんだけれどね。実際にそのパスタもね」
「ええ」
「食べてみればいいよ」
エリーに勧める。
「是非ね」
「食べればいいのね」
「そう、食べれば全てがわかるから」
笑顔での言葉だった。
「だからね。どうぞ」
「わかったわ」
エリーは渋々ながらマスターのその言葉に頷いた。そうしてだった。
パスタをフォークに絡めさせてそのうえで口の中に入れる。まずはオリーブとガーリックの香りがした。そしてそれからだった。
口の中でだ。これまで味わったことのない風味が拡がる。それは確かに。
「美味しい・・・・・・」
「そうだろ。美味しいだろ」
「ええ、確かに」
こう言えたのだ。
「こんなに美味しいものなのね」
「そうだよ。イカは美味しいんだ」
「意外ね。墨なのに」
「イカも入ってるよ」
見ればだ。パスタの中には黒くなった小さなものも入っている。その黒さがイカの墨によるものもまた最早言うまでもないことであった。
「それもどうかな」
「それじゃあそれも」
これも食べてみるとだ。美味かった。そして他のものもだ。気付けばケーキが目前に迫っていた。
ケーキはオレンジのケーキだった。マスターはそのオレンジのケーキを見てまた話した。
「このオレンジはね」
「ここのオレンジかしら」
「そうだよ、このシチリアのね」
まさにそれだというのである。
「これはね」
「そうなの」
「やっぱり最後はデザートだからね」
「だからこそのケーキね」
「うん、これも食べてくれよ」
こう言ってエリーにそのケーキを勧めるのだった。
「コーヒーもね」
「コーヒーは。そうね」
エリーは笑顔で彼の言葉に応えた。
「それじゃあ喜んで」
「コーヒーもいいんだね」
「ここはシチリアだから」
「だからなのかい」
「コーヒーをね」
それでだというのだった。
「飲ませてもらうわ」
「イギリス人なのにコーヒーなのかい」
「そうよ。確かに普段は紅茶だけれど」
このことは言った。やはりエリーもイギリス人だった。
「それでも。イタリアだから」
「郷に入っては郷に従えかい」
「何、その言葉は」
「ああ、日本人に教えてもらったんだ」
マスターは楽しげに笑ってこう説明した。
「それでなんだよ」
「日本人になの」
「日本の諺さ」
それだというのである。
「それなんだよ」
「それがその郷に入ってなのね」
「その土地に来たらその土地に合わせる」
マスターはその意味も話した。
「そういうことだよ」
「そうなのね。じゃあやっぱり」
「コーヒーにするんだね」
「そうさせてもらうわ
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