暁 〜小説投稿サイト〜
バカとテストと白銀(ぎん)の姫君
序曲〜overture〜
第一話  初めての環境
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に何かを呟いてしまっていたのか。
性根が曲がっていなければきっと心配してくれていると受け取っていたのだろうけれど、今の僕にとって正体を見破られるわけには行かないとの考えが先行してしまう。
それでも心配してくれているのはニュアンスで伝わってくる。
そのことが何となくこそばゆく感じる。
見知らぬ人から僕のことを心配するような言葉を聞くのは、あまりにも久しぶりすぎた。
「失礼致しました。その……ご迷惑はお掛けしませんので。」
彼女に頭を下げると相手を慌てふためかしてしまった。
「えっ、あの、べ、別に迷惑なんてないから。それよりも貴女、熱があるみたいだけど大丈夫なの?」
「そうですね、確かに大丈夫だとは言えません。ですが振り分け試験はこの一回しか実施されませんし、それに途中退室は零点になってしまいますから。少々熱っぽくはありますが最後までやり遂げるつもりですよ。」
今の自分に出来る精一杯の笑顔を困惑した顔をしている女生徒に向けると、彼女の顔は不思議と少し紅く染まる。
「あの、私は小山友香。友香で良いわ。貴女の名前を教えてくれないかな…」
「私は妃宮千早と申します。私のこともどうぞ千早と呼んでください。今年から編入することになりましたので至らぬところなど多々あるとは思います。どうかよろしくお願いしますね、友香さん。」
笑顔を浮かべ続けたまま、彼女の様子をうかがい続けていると、彼女に顔を俯けられてしまった。
何かまずいことでもしてしまっただろうか。
「これより問題用紙を配布します。着席し、参考書など筆記用具等以外は鞄の中に仕舞いなさい。」
先生が教室に入ってくる。次のテストは確か数学だったはず。
彼女の様子に若干の違和感を覚えたけれども、今は眼前のテストが第一であろう。
「…席に座りましょう、友香さん。」
「いや、その、うん、そうね…テスト……がんばってね、千早さん。」
バネ仕掛けの人形みたく、肩が跳ね上がったのはご愛敬だろう。


しかしそんな心落ち着く出来事があっても、体の調子はよくはならなかった。
数学のテストの最中に体調は悪化して、試験どころではなくなってしまったのだ。
途中退室を余儀なくされたために、僕の受けてきたテストは全て無効。
その場で最低クラスへの編入が確定してしまったのだった。
僕の方を心配そうに見つめる友香さんの目線を肌に感じる。
テスト中に目立つことをしてしまったこと、僕の具合など本当なら無関係な彼女に集中力を切らせてしまったことに罪悪感を覚えながら、僕は教室を後にした。



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