第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
七月二十五日:『虚空、虚数』
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走る。疾走する、疾駆する。『大鹿』のルーンを刻んだ両足で、バケツをひっくり返したような土砂降りのスコールの中を全力で。強い向かい風に乗った雨粒が叩き付けられ、全身を濡れ鼠にしながら、数メートル先の視界すらもままならぬままに。
背後から追い縋る、殺意を感じる。首筋や心臓、背骨の隙間。あらゆる急所を狙う、鋭い視線を。刻んだルーンも相俟って、狩人に狙われた獲物の気分である。
『てけり・り!』
風雨に紛れ、発砲音すら聞こえない銃撃。それを如何な感覚器官を駆使してか、察知したショゴスの蝕腕が銃弾を弾くべく、唸りを上げながら振り上げられ────
『てけり・り?!』
直撃コースが、外れた。否、回避されたのだ。
何らかの魔術か、ショゴスの自律防御を掻い潜った銃弾。弧を描き、或いは角度を作り、まるで生き物のように迫るそれは。
「チッ────!」
掲げた偃月刀の加護、守りの切り札が。浮かび上がる第一印『竜頭の印』を代償に、辛うじて銃弾五発は防がれた。
しかし、恐るべきはその銃弾は────
「────逃げるだけかよ、この臆病風野郎ッ! 闘え!」
「ッ────悪ィね、アンタでも吝かじゃねェが……」
文字通り『宙を駆けて』前方に回り込んできた黄衣の少女にとっては、単なる小手調べでしかないと言う事────!
「俺ァ、誓約を破る時は『心から惚れた女を抱く時』ッて決めてンだ────!」
降り立ち雨粒を巻き込みながら、跳ね跳ぶ勢いのままに繰り出された反転回し蹴り。白く細い、少女のそれ。年齢に見合わぬ、練達の軍隊式武術を感じさせる。
だが、好機ではある。誘導式の銃弾には無理だが、肉弾戦ならば。
────そう、肉弾戦ならば。鍛え上げた我が『合気道』ならば……一矢、酬いる事が出来る。
直感が、そう告げる。それは、『攻撃』ではなく『防御』だと。だから、『誓約』には抵触しないと。受け流しても、問題はないと。
その直感のままに。右手を────
「チッ!」
伸ばす事無く、目で見たままに。『雨粒を巻き込む』蹴りを躱す。大袈裟なくらいに、距離を取って。
その観察通りだ。雨粒を巻き込む『竜巻』を纏う反転回し蹴りは、触れもしていない街路樹の幹とガードレールを半分以上削り飛ばした。
粉砕機に砕かれたように細かな、木屑と鉄屑を浴びながら。嚆矢は、『直感』の
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