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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
七月二十五日:『虚空、虚数』
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む、サングラスの大男を。
 何時の間に現れたのかすら、分からなかった。その体に宿る緑の雷光が、バチリと弾ける。

「殺してやる気でこの廃区画まで追い込んでみれば……成る程、“土星の環の魔導師(マスター・オブ・サイクラノーシュ)”の秘蔵なだけはある。顕現しかけた『這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)』に、精神力のみで抗うとはな」

 ほぼ、意味は分からない。しかし、分かる事もある。今、雨と風が止んだ事。そして、己の命はこの男に握られている事が。
 だが、男は嚆矢に見向きもせずに。肩に担ぐ黒い雨合羽の青年をそのまま、倒れ付した少女に……紙片を握る右手を差し出して。

「引き揚げだ、“セラエノ断章(セラエノ=フラグメンツ)”」

 息吹を掛ける。刹那、少女の姿は無数の(ページ)と代わり、男の右手に……一冊の『魔導書(グリモワール)』として。

「コイツらよりは、見所がある。その気があるなら、訪ねてこい」

 投げ放たれた紙片、水溜まりに。住所が記されたソレ、濡れて歪んでいて。しかし、油性のインクは落ちない。
 目を上げる。目の前、屈強な男の顔が。サングラス、持ち上げて。

「レイヴァン=シュリュズベリィだ。覚えておけ……コウジ=ツシマ」

 何もない、伽藍堂の眼窩。漆黒の闇が詰まった、それを見た記憶を最後に……男は、掻き消えている。まるで、初めから居なかったかのように。
 緑の雷光、その残光だけを残して。周囲全てに接する右腕にすら、感じるものはなく。

「……化け物が」

 震える指で、煙草に火を。万色の紫煙、燻らせながら。人の気配が戻りつつある世界に、安堵を溢して。

「…………ハッ。人の敷地で勝手した割りには、随分と絞まらない結末だったにゃー」

 その一連の出来事全てを目に。それでも、何ら揺るがずに嘲笑った……逆立った金髪にサングラス、アロハシャツの少年の姿、気付く事は無く────。
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