群雄割拠の章
第五話 「わたしは彼と、添い遂げる」
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孫堅様の夢を……」
「…………………………」
冥琳が、お姉様の胸で泣く。
まさしく慟哭のように。
でも――
「……それでも」
「!?」
お姉様の言葉は――拒絶。
「それでもわたしは、盾二の元へ行くわ」
「ああ…………あああああああああああああああっ!」
バキッ、という音が響く。
平手ではなく、拳での殴打。
本来ならば避けられる冥琳の拳を。
お姉様は……その身に受けた。
よろけて膝をついた冥琳の手が、お姉様の胸倉から離れる。
お姉様は頬を腫れ上がらせながら……目だけは変わらず、私達を見た。
その決意を秘めた――瞳のままで。
「そんな……断金の交わりと言われた、冥琳とお姉様が……」
シャオが驚愕した声で呟く。
私も同じ思いだ。
お姉様と冥琳だけは、決して離れないと思っていたのだから。
「……冥琳。わたしにはもう、貴女に言える立場でもないけど……蓮華をお願い」
「…………………………」
冥琳は嗚咽を漏らしたまま、顔をあげない。
お姉様は、その冥琳を見ながら、両のまぶたを閉じた。
まるで頭を下げ、許しを請うように……私には、視えてしまった。
「蓮華。わたしのことは道中、病で死んだことにでもしてくれていいわ。何なら賊に殺されたことでもいい」
「な……何を言うのですか! お姉様が……たとえお姉様が孫呉を一時的に去ったとしても! また戻って……」
「ダメよ。私はもう、孫呉に戻る気はないわ」
「お、お姉さま……」
その決意の瞳。
お姉様は――
「お、おねえさま……やだよ……シャオ、おねえさまと別れたくないよ……」
シャオは、涙でくしゃっと顔を歪ませたまま、お姉様にすがりつく。
けど、お姉様はそのシャオの頭を撫でて――しゃがみこんだ。
「……ごめんなさい。あなた達の想いはすごく嬉しい。でもね……でも、それでも……わたしには、盾二のことを忘れられないの」
「グスッ……おねえさまは……おねえさまは、シャオ達より……家族より、その人を選ぶの!?」
「……ええ。そう、決めたの」
「う……うう……うわあああああああああん!」
シャオが号泣する。
お姉様は、そのシャオに頭を下げて……立ち上がった。
「いつか……いつかシャオにも、自分の全てを捨ててもいいと思える人が……できるかもしれない。その時は……心のままに動くのよ」
「やだよぉ……おねえさまぁ……おねえさまぁ……」
「……ごめんね」
そう言って、シャオから手を離すお姉さま。
その時、私はようやくお姉様が本気で今までの全てを捨てるのだと、本当の意味で理解した。
お姉様は、家族も友も、今までの全てを捨てて。
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