群雄割拠の章
第五話 「わたしは彼と、添い遂げる」
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………………敵わない。
私は、初めてそう感じてしまった。
壁にもたれたまま、その姿を見る。
その女性に……女に。
一途に自らの愛する人を求める、その姿に。
完全に敗北したと……悟った。
その人は……強く光る眼差しで桃香様を見つめ。
そして踵を返し――部屋を出て行った。
私は……私は、あんな風にご主人様を想っていただろうか。
いや。
自身のすべてを投げ打って、あの人を追おうとしなかった私に、そんな想いは……なかったのだ。
私が抱いていた恋慕の情など……まやかしに過ぎなかったのだ。
(そうだ……私は姿を消したご主人様を追おうともしなかった。桃香様の事だけしか頭になかった……そんな私に、孫策殿が眩しく見えた)
そうか……私は、すでに諦めていたのだ。
ご主人様を……
北郷盾二という……天の御遣いを。
一人の男を……
自然と、目から何かが溢れ出る。
ああ、そうか……私は。
私こそ、彼を……
ご主人様を、一方的に見限ってしまったのだな。
彼を……彼の想いを、信じもせずに。
そんな私に、彼を想う権利など……ありはしないのだ。
「は……ははっ……」
無様だ。
そのとおりだ。
私は……人として、女として。
義も情も全て。
あの人に……孫策伯符という女性に。
負けたのだな……
「………………っ!」
ギシッ、という音が聞こえた。
それは、桃香様の寝台から聞こえた音。
それに気づき、顔を上げる。
そこには――
「と、桃香……様」
見たこともない、桃香様の顔。
青白い顔、痩けた頬、細く痩せ衰えた躰。
けど、目だけが。
その瞳には、今までにないほどの強い光が輝いて――
「あいしゃ……ちゃん」
「桃香様……」
「……ご飯を、持ってきて」
桃香様が。
この二月の間、力なく横たわるだけだった我らの義姉が。
倒れそうな躰を必死に両腕で支えながら、懸命に立ち上がろうとしている。
「桃香、さま……」
「……負けない」
呟く唇から、歯を食いしばり、噛みちぎった血が流れる。
それでも痛みを力に変えるように、懸命に自身の躰を起こそうとする。
「ご主人様は……渡さない」
「桃香……さ……」
「あの人に……負けたくない」
……なんという、想い。
桃香様は……この義姉は。
私の想いなど到底及ばない程に。
ご主人様を……北郷盾二という人を。
愛して……いるのだ。
「ご主人様……盾二さんは、私に立てと……言ったの……」
「………………」
「自分の足で……自分の理想を叶えるために……自
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