例えばこんな真実を暴く必要があったのだろうか
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訳が無い」
「買い被りよ・・・育てきれないかもしれない子を産んでしまうことが正しいなんて言い切れる?」
「それは・・・」
「産むことが正義じゃないの。命に責任を持っていなければ、その無秩序は将来に子供を苦しめるわ」
沈んだ表情で儚く笑う光子の問いに、言葉が詰まった。言い返すには余りにも人生経験が足りなかったから。そんなジェーンを見て、素直な子ね、と光子は呟いた。
ゴエモンには、貴方の所為ではないと言い聞かせた。だが、少しずつそのふくらみを増していく腹部にゴエモンは否が応でも母親を妊娠させた事実を無視できなくなっていった。母親の身体に起きる大きな変化。それを自分が齎してしまったという言いようのない罪の意識がゴエモンに圧し掛かる。
産まれる子供は夫との間に生まれた子だとゴエモンに言い聞かせると、ゴエモンは頷いた。だが、そういうふうに嘘を付けという意味だと捉えていたのだろう、その顔に時々影が差すようになっていった。
そして、出産。赤子は夫の名前から取って宋詞朗と名付けられた。
この子は貴方の弟よ、と言うと、ゴエモンは静かにうなずいた。もうその頃には、光子にさえゴエモンが内心で何を思っているのか分からないほど巧妙に本心を隠すようになっていた。隠すことで周囲に不安をばらまかないで済むと子供心に考えていたせいだろう。
「でも、世の中の技術の発達って凄いのね。まさか生まれてすぐに、あの子が将来目の疾患を患うって分かっちゃうなんて。これもIS技術のおかげなのかしら?」
「将来・・・?では今は別に発症していないのですか?」
「いいえ、遺伝子調査なんかで疾患を持っていることがすぐ分かったって話よ。症状は少しずつ進行しているけど、普通に暮らしていたら疾患を持っているかどうかも分かりにくいんですって」
どうにも病気の詳しい症状については勉強が不足していたようだ。もっとしっかり調べておけばよかった、と頭を掻く。
「視力に本格的に異常をきたすのはもっと先のこと。あのサングラスは最近になって羞明の症状が出始めたからかけさせてたの。こんなに小さい頃から症状が出てると3,40代で失明することもあるなんて言ってたけど――ゴエモンの開発したあの凄いサングラスがあれば、不便でも生きていけるわ」
――だが、最初から楽観していた光子とは違ってゴエモンはその事実にひどく打ちひしがれていたという。まるで弟を、自分の犯した過ちの犠牲者であるような事を口走っていたのを光子は聞いている。
親近者同時の間で産まれたがゆえに遺伝的疾患を背負わせてしまった。弟への思いやりは人一倍だったが、その思いやりにはきっと贖罪の意識が残っていたのだろう。
「――私が分かるのは、ここまで。ゴエモンはあのころを境に、わたしにも本心を隠すようになっ
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