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Nalesha
Onze
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なり得ない。それさえわかっていれば、わたしは思う存分わたしのやれることをするだけ。



 枷は多い方が良い。目をつぶり、耳を塞ぐ。わたしは「わたし」だけで、目指すものに辿り着いてみせる。



 車の振動が身体を揺する。ドクドクと鳴る傷の痛みが自分の鼓動を強く意識させる。



 わたしの体の中を、血が流れている音だ。生きようとしている。わたしはまだ。



 だから、わたしは、なんだってやれる。



 暗闇、耳から聞く音すらも体から追いやった中でふと思う。



 エル。



 本当の悪魔というのは、エルのことを言うのかも知れない。



 なぜ、彼はわたしに見える目隠しを渡したのか。



 この目隠し、なんてことない、たった一枚の布きれ。それ以上でも以下でもない。それだけ。



 それが。



 わたしの背筋に、冷たい汗が伝う。エルの心から楽しそうな笑顔がふと眼裏に浮かぶ。



 そう。



 一体誰が気づける?これが、彼の悪意の塊、アダムとイヴが齧った、真っ赤で美味しそうな林檎だと…。



 きっと、彼は今まで幾度もそうやって、ひとの心の悪魔に囁いてきたのだろう。



 ひとは弱い。楽な方へ、楽な方へと流れゆく。



 真面目な聖職者が、性的な興味を惹かない同姓に囲まれている内は汚れない顔をして他人に教えを説けるだろう。



 けれど、そこにひとり異性がいたら?自分に好意を持っていたら?その異性がどうしようもなく自分の好みだったら?その場所が絶対に他人には知られ得ない状況だったら?



 果たして、何人の人間が誘惑を退けられるだろう。自分に失うものが少なくて、得るものだけ多い、そんな誘惑に負けない人間は極少数だ。重ねて言う。人間とは欲望に弱い生き物なのだ。



 エルはその、人間ひとりひとりの弱さを嗅ぎ分けて、そっと優しく囁くのだ。どうしてあの林檎を食べないのか、と。とてもとても美味しいしみんなも食べていると。あとはただ待てばいい。獲物は自ら堕ちてくる。気がつけば誰もが身動きのとれない泥沼にはまりこみ、日常だった幸せなエデンは最早夢でさえ触れられない遠くだ。



 わたしが今目を開けるのは簡単だ。目隠しをしていると言っても、意味が無い程外の景色は見える。手も拘束されている訳でもない、自由だ。この目隠しをすぐさま自分で取ることだって出来る。



 そうして、流れる景色を覚え、道を振り返り、本部への距離や方角、地図を頭に入れることはこれ以上ないくらい簡単だ。



 しかし、それをしたら最期、エルは(たちま)ちわたしから興味を失い、わたしは容赦なく殺
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