虫を叩いたら世界は救われるか検証してみた・霊の章
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しかめた。
『何を言う!これは我等八百万の神があの子悪党を見つけ出さなかったが故の惨劇ぞ!起こるべきでなかった惨劇によって命が失われるなどあってはならぬ!犠牲者はこのタケミカヅチが責任を以って救うに決まっておろう!!』
そう言ってタケミカヅチは、私の頭を撫でながらガハハと豪快に笑った。その掌は硬くて、巨大で、しかし暖かかった。旅館はタケミカヅチの放った光に包まれ――気が付けば翌日の朝になっていた。
何が起こったのかと周囲を見渡すと、そこには死んだはずの5人の親友たち。皆が言うには昨日の夜に旅館の真横にあった小屋――異界では、そこが祭壇の入り口だった――に雷が落ちた以外は何もなかったという。
あの日の夜に起きたことは、女将さんも含めてだれも覚えていなかった。
終わってしまってからふと思う。
私が見たあれは、すべて悪い夢だったのではないか?
旅館の何所を回っても、誰に何を聞いてもあの夜の事を覚えている人は一人たりともいなかった。ともすれば、果たしてあれが一夜の悪い夢ではないと断言できるだろうか?私の記憶を除けば、あの「ゐんがみ」の存在を立証する方法はないのだ。
あの時に出会ったタケミカヅチとて、雷が近所に落下した時の音と光が夢にイメージを与えたのかもしれない。
「しかし、結局犯人は誰だったんだろ?」
「え?何が?」
「あれ、キクノには話してなかったっけ?いやね、旅館の女将さんが『冷蔵庫から油揚げが消えた』って不思議そうに言ってたからさ。誰かがきっと深夜に盗んだんじゃないかってみんなで話してたの」
「業務用の油揚げ一袋だからな……女将の勘違いとは思えないよな」
「油揚げが……あっ」
――お供えに冷蔵庫から持って行った油揚げだ。
「……キクノ?何か心当たりが……」
「キミ、まさか犯人だったり……それとももしやつまみ食い!?」
「ち、違う!違うから!!そうじゃなくてえっと……き、きつねうどん食べたくなったなって!」
あの油揚げ、タケミカヅチさまが持って行ったのかな?
そう思うと、おかしくなって笑いが込み上げた。
油揚げはタケミカヅチが稲荷明神の土産に持ち帰った。それは確かだ。
だがその油揚げが全ての輪を繋げることとなったのを、キクノを知らない。
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