龍と覇王は天前にて
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ある役割が与えられる。
この場に敗者はいない。劉表も、華琳も、どちらもが望む展開になるだけ。劉表が華琳に与えたい影響は、時間稼ぎと兵力低下だけなのだから。
ふい、と視線を司会役の文官に向けた劉協は、
「よきに計らえ」
短く一言。理由は把握した。だからもう、お前達で決めろ、と。
低く会釈して、文官が口を開く……前に、悪龍が口を歪めた。これで全てが整ったと言わんばかりに。
「逆臣の始末は曹操殿の軍に名誉挽回の機会を与える意を込めて一任してみるとよいでしょう。陛下の身と洛陽の安全は、孫策を呼びつけるカタチで三軍の兵によって守るのが最適かと。また孫家が裏切らないとも言い切れませんので、曹操殿には監視をして頂けたら尚嬉しい。何せ、虎は二度も私に牙を剥いておりますから」
劉表に提案されて、文官は言葉に詰まる。これで対袁家連合を組めとは言えなくなった。
不甲斐無い、とばかりに大きくため息をついた劉協が立ち上がり、場が凍る。
「曹孟徳、そなたに対袁家は一任する。必ずや先の不足を注げ。同時に、劉景升と共に孫伯符の叛意を確かめよ」
御意と短い返答が為されるを待たず、コツ……コツ……と劉協は歩みを進めて行く。
口を引き裂いたのは誰であったか。
覇王と悪龍の二人共。
己が描いている乱世の絵図を
その先を見据えて、ただ笑う。
〜旧き龍の末裔は〜
身の回りの世話を終わらせた侍女を下がらせ、ポスッと寝台に身体を倒し、劉協は枕に顔を埋めた。
精神的な疲労は言うまでも無く、先程に相対していた二人の臣下を思い出して身が震える。
「何故、皆は仲良く出来ないんじゃろうな」
寂しさから、傍に誰も居ないから、独り言を零すのが癖になってしまっていた。
気付いて恥ずかしいと思った事は数え切れないが、今はもう、気にならない。気にもしない。口から吐き出さなければ、溜め込んでしまうから。
腹黒さは見て取れる。話していた内容は駆け引きの応酬であるのだと分かり切っていた。
据えられただけのお飾りの人形。何もしていなくとも、平穏な大陸に出来なければ責められ、貶められるのが自分。
無力だ……と感じていた。
ただ、自分から動いてはならない事も、よく分かっている。
「姉上……」
ポツリと零した。
寂寥を存分に含んだその声は宙に溶けて消える。
「漢は死ぬぞ。皆に殺される。しかし、余が動けばもっと酷くなる。帝は自ら動いてはならん。動くなら……月が生きているあの時が、最後の機会だったんじゃ」
聡明な頭脳で過去を思い返せば、出来うる事は多々あった。
連合時に動いていれば事態を好転させる事も出来たはずだった。そ
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