21:天使の寝顔
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ユミルは、余分に十人分は作った馳走の山を、一人でなんと半分近くも平らげた。
その間にも目から涙が止むことはなく、一口食べるたびに「おいしい」と何度も何度も連呼した。それを見て俺達はもれなく揃ってそれぞれ意味の違うであろう微笑みを送ってしまい、マーブルはそんな俺達も含めて全員を温かい微笑で見守っていた。
ついに最後のシチューの盛り付けられた一皿まで平らげたユミルは、きちんと手を合わせ「ご馳走様」と呟いた後……まるで人形の糸を断ち切ったかのように、コテンと俺の肩に寄りかかってきた。
一瞬、氷点下に冷えた視線三つが俺目掛けて突き刺されるも……真横の金髪から香る、微かに甘さの混じる柑橘系の香りに内心どきまぎしながら、何事かとその顔を覗いてみれば……
ユミルは、事切れたかのように昏々と眠っていた。
今ではその頭はマーブルの膝の上に移され……それはそれは純粋無垢に他ならない、天使のような寝顔を晒していた。
その小さな口元は、すうすうと定期的で安らかな寝息をたてている。
「よっぽど疲れていたんですね……。きっと、長い間、ずっと……」
シリカが目を細めながら、穏やかに言う。
ユミルの目尻の睫毛にはまだ涙の雫が残っており、それになんとも言えない感情が俺達の心を胸打つ。なにより微笑ましいのは、そんなユミルをマーブルが慈しみに溢れた顔で見下ろし、心の底から愛おしそうな手付きで優しく、優しく彼の髪を撫でていた事だ。そんな彼女は本当に嬉しそうで……その情景は、母が子を子守唄で寝かし、その寝顔を愛でている絵画の一枚のようだった。
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「……あなた達は、本当にすごいわ」
髪を撫でる手を止めることなく、マーブルが口を開いた。
「この子は私と居た半年間、一度も心の内を見せてくれなかった……。だけどあなた達が来て、たった一日。たったそれだけで、あなた達は信じられないほど多くのユミルの顔を私に見せてくれた。この子の心を……少しだけ、垣間見せてくれた。この子は、本当はこんなにも……無垢な子なのだと、信じさせてくれた。それだけでもう、感謝してもし切れないくらい……」
「いえ……そんなこと、ないです」
それにシリカが首を振りながら言う。
「それに、感謝されるのは、まだ早いですよ」
アスナがそれに続く。
「お礼の言葉は、ユミルくんが心を開いて、あたし達の友達になってからにしてください!」
リズベットが空気を明るくするかのように、ぐっと手を握りながら言う。
ここで最後に俺も続くのがスジというものだろう。
「そうですよ。全てが終わったら、またここで晩餐会をしましょう。マーブルさんの手料理、すごく旨かったのでまた作ってください」
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