嫌いだけど、
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鬼灯に散歩に誘われた。
その事実だけで白澤の心は舞い上がるようだった。
今にも降り出しそうな曇天の中を鬼灯と白澤が並んで歩く。
「雨、降りそうですね」
ぽつりと鬼灯が言った。
白澤より半歩先を行く鬼灯の顔は白澤からは見えない。
「そうだねぇ。僕ら傘持ってないから降ってきたらびしょびしょだよ。雨の中を傘を差して歩くのがいいんじゃないの?」
「雨が降ったら貴方を傘代わりにしますから」
「それじゃ僕だけびしょ濡れコースじゃん」
いつもよりも勢いのない軽口を交わしながら桃源郷を歩く。
雨に濡れている桃源郷はいつもとは違いしっとりとした雰囲気を醸し出していて、どこか物悲しい。
「…ここ」
鬼灯が立ち止まった。
「あぁ、ここ。綺麗だよね」
鬼灯が立ち止まった場所は、覆い茂る仙桃の木々を見下ろせる小高い丘だった。
「普段も綺麗なんだけどね、雨が降るともっと綺麗に見えるんだ」
「そうですね...綺麗です」
仙桃の季節はもう少し先で実はまだ少ないが、桃自体よりも、ついたばかりの葉の若々しさが雨で際立っている。
美しい景色だった。
「そういえばさ、地獄では雨、降らないんだよね。」
鬼灯の横に並んだ白澤が、ぽつりと呟いた。それは独り言に近いものだったが、隣からは返事が返ってきた。
「そうです。八大地獄に雨なんて降ったら呵責に炎が使えなくなります」
ワーカホリックらしい返事だと思いつつも、そんな鬼灯を好きになったのだから仕方がないと思う。
白澤は景色を見る鬼灯の顔に手を伸ばした。
自分よりも色白の肌に触れる。
「なんですか?」
鬼灯が白澤の方を向く。
小雨が降ってきた。これくらいならば、傘を差す必要はないだろう。
白澤は鬼灯を抱きしめた。
その体を鬼灯が遠慮がちに抱きしめ返した。
「鬼灯、ほおずき、好き」
鬼灯の肩に顔を埋めて囁く白澤に、鬼灯は微笑して答えた。
「私は嫌いです。何より嫌いで、何より好きです」
「僕は、僕のことが嫌いで好きなお前が好き」
白澤は肩から顔を上げると、鬼灯に口づけた。
はじめは触れるだけ、閉じられた鬼灯の唇を啄む。
そのうち、閉じた唇が緩んだところに舌をもぐり込ませる。
「ん…」
鬼灯が小さく反応する。
もぐり込ませた舌を鬼灯のそれと絡ませ、唾液を吸う。さらに角度を変え絡ませ、歯列をなぞる。
「ふっ…ん…ぁ」
呼吸がうまくできないらしい鬼灯の声が漏れる。
白澤が口を離すと、唇の端から唾液が零れる鬼灯の姿が目に入る。その顔は扇情的に赤く染まり、一気に押し倒してしまいたい衝動に駆られる。
雨は勢いを増していく。もうそろそろ傘を差した方
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