トワノクウ
第十六夜 かけがえのあるもの(二)
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ちゃらですよ」
くうはへらっと笑った顔を上げ、帽子を握り締めた。
「だって、くうはカラッポで、つまんない子で、何にも持ってなくて、だから」
最初から彼らとて、ちっともくうのものではなかった。
ぽと。涙が一粒落ちた。くうは急いで帽子を引っ張って目元を隠した。
涙は見せられない。弱さをさらけ出して甘えれば、梵天はきっとくうを見限る。露草のため以外の価値など今のくうにはないのだから、私情などという余分をさらけ出してはいけない。
「だから、潤君と薫ちゃんがこんなくうをキライでも、へっちゃらなんです」
嫌われてもしかたのない人間がいるとしたら、それは今のくうだ。他の誰でもないくう自身が、篠ノ女空をきらい。泣けば目の前の彼が慰めて、君は悪くない、と言ってくれると期待しているから、きらい。
煮え切らず、立ち去りもできず喉が痛むまで嗚咽を堪えていると、梵天の手が、帽子を握っていたくうの手を外させた。
「君の母親に言わせると、女に優しくできない男は生きる価値がないんだそうだ」
確かに母の口癖だ。母はその教えを、父や家庭教師のように心許した男に対して口にした。
母の口癖を知っているくらい、梵天は本当に母と親しかったのだ。
「少なくとも、ここで君を放置すれば、俺は確実に萌黄の怒りを買うだろうからね」
彼は遠回しに、この場で想いを吐露することを許してくれていた。
「ほんとは、平気なんかじゃ、ない」
声が震える。
「薫ちゃんに憎まれるのも、潤君に見捨てられたも、ほんとはいや」
手が震える。
「くうは、くうのままなのに。何にも変わってなんかないのに」
――心が、震える。
「薫ちゃんも潤君も、くうが妖かもってだけで」
撲殺するまで打ち据えた薫。捨て駒扱いを仕組んだ潤。
友達だと思っていた。だが、それはくうの思い込みに過ぎなかった。彼らの中の優先順位は、あるかないかも定かならない友情よりも妖退治だったのだ。
「くうを傷つけるの、迷ってもくれなかった」
篠ノ女空という人間は薫と潤にとって迷う理由にすらなれない、軽い存在だったと思い知らされた。
「篠ノ女空は、二人にとってその程度でしかなかった……!」
くうは薫と潤が妖だったとしても好きだ。だが薫も潤も、くうが妖なら殺せるほどにしか好きでいてくれなかった。
痛い。痛い。胸が痛い。心が痛い。
「あ、う、うああああっ!」
我慢も切れて本格的に泣き出したくうを、梵天は危惧したように見捨てるでなく、黙って抱き寄せた。
帽子が落ちる。梵天の温かさに、くうは初めて自分がこ
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