20:『おいしいよ』
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「――で、これは一体どういうこと?」
ソファの中央にちょこんと座るユミルがムスッと言う。その目の前の木の丸テーブルには、女性陣が手掛けたジャンル不定のご馳走たちが所狭しと並んで湯気を立てている。
「おっと、忘れたとは言わせないぜ。それとも、トボけたフリか? 見苦しいぜ、ユミル」
「……………」
そっぽを向かれる。だが、彼はどの道逃げられないのだ。両脇には俺とマーブル、さらに向かいのソファにアスナ達という万全たる体勢がユミルを歓迎して逃さない。
さらにはユミルは今、アスナ達が戦闘服と時を同じくして拵えた、裾に余裕のあるふわりとした普段着仕上げのコットンパーカー風の上着とパンツを羽織っているのだ。質素ながらもどこか中性的な印象を醸し出すその服は、彼の異国風かつ可憐な容姿と相まって、このゲームの世界観とあまりに合致し、思わずNPCかと間違えそうなほどに似合っていた。
「ほ、ホントに食べなきゃダメ……?」
ユミルのそのおかしな問いに、俺達は揃って苦笑してしまう。
「ああ、そうして貰わないと困る。俺はこの為に、お前と決闘して勝ったんだからな」
「うっ……」
「それにあなた……こういったマトモな料理を食べるの、どれくらいぶりなの?」
ユミルを隔てた位置に座っているマーブルが、エプロンと三角巾を外しながら問う。
「…………たぶん、一年以上、食べてないと思う」
「「「い、一年以上!?」」」
俺達は揃って声を上げた。
マーブルもこれには驚きに口を開け、頬に冷や汗を一筋流している。
「べ、別に問題ないでしょ!? 木の実だけでもお腹は膨れるし、この世界は栄養管理とかしなくていいんだからっ!」
俺達の驚きの声に感化されたのか、ユミルも声を張り上げていた。
「なんだよ、そんなに驚いてさ。いいじゃんか、別に栄養欠乏で死ぬわけでもなし……」
「ダメ」
綺麗に折りたたんだエプロンと三角巾を傍らに置いたマーブルさんはキッパリと追った。
「……つまり、あなたはもう一年以上も温かい食べ物を口にせず、美味しいと思った事もないのね?」
「べつに、おいしい木の実とか知ってるし……」
「それでもダメ。こんな世界でも、ちゃんと食べないと……そんなの、人として生きてるって言えないわ。そう思わない、ユミル?」
「…………っ」
マーブルの真剣な顔がユミルを正面から対峙し、それにユミルは怯む。その目線が机上の料理へと移る。
「――でも……嫌だ。ボクは……人の作ったものが、信じられない……怖いんだよっ……!」
「ユミル……」
いつになく心情を吐露したかのような、震えるユミルの声に、俺は湿った声を漏らしてしまう。
だが、そ
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