20:『おいしいよ』
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く開く。
「……う」
が、あと一歩のところで、まるで見えない障壁に阻まれているかのようにピタリとその手が止まった。
「く、うっ……」
そして苦渋の顔を浮かべながら、その場でプルプルと手が震えてさせている。アスナ達が無音の応援をするように膝の上で手をぎゅっと握っているが……どうしても、あと数センチが進まない。
と、そこへ……ユミルの横から、ナイフとフォークが割り込んだ。
それはマーブルのものだった。
「マーブル……」
ユミルのたじろぐ声に彼女は何も言わず、マーブルはユミルの前の皿のロールキャベツをさらに一口分切り分け、そして自分の口へとおもむろに運び込んだ。その後、しっかりと何度も咀嚼し、嚥下する。
そして浮かぶ、自然な微笑みがユミルを見下ろした。
「……ホラ、大丈夫。おいしいわよ。……とっても」
「……………!」
それを見たユミルは僅かに目を見開き……
「………………ぁむっ」
ついに意を決し、思い切った風に目を固く瞑ってフォークを口の中に放り込んだ。
その途端……
「――〜〜〜〜〜ッ!?」
カシャンと音を立ててフォークとナイフを皿の上に置き、慌てて両手を口に当て体を前に折った。髪が重力に従って流れ落ち、彼の幼い顔を隠す。
「うわっ!? 大丈夫かユミル!? も、戻しそうなのか……?」
ぶんぶんと激しく頭を左右に振り、否定の意を伝えてくる。
「もしかして……不味いとか……確実に無いと思っていたんだが、なにか悪いもの入ってた、とか……?」
先程と同じジェスチャーをし、それからゆっくりと体を戻した。
「っ……違うっ。……違うんだっ……っ」
その顔は目が微かに潤んでいたものの、口が嗚咽を、はたまた激しい感情を堪えるかのようにつぐまれ、ハッキリと表情が読めない。
「違うって、なにが……?」
ユミルはそれに答えず、次の料理に手を出していた。……ハンバーグステーキだった。デミグラスソースとホワイトソースが魅惑的なマーブル模様を描き、A級食材の極上の挽肉の中身にはさらに、贅沢にとろけるチーズが仕込まれている。片や料理スキルを完全習得し、片や抜群の料理センスを誇るマーブルとアスナが手掛けた、渾身の一皿。
それを今度は全体の三分の一……一口というにはかなりデカイ、チーズの糸引くその肉の塊を、はむぐっ、と音を立てて口いっぱいに頬張った。
しっかり味わうように何度も何度も下顎が上下し。
ごくり、とこちらまでハッキリと聞こえる喉の音を立てて、一息に飲み込んだ。
次の瞬間、
――――ほろり。
そんな音が聞
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