20:『おいしいよ』
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そのまま、時間が止まったかのように動かなかったが……
きゅる。
ピナが、シリカの肩から首を伸ばし、ユミルを心配げに見やりながら小さく鳴いた。
それにユミルは顔を僅かに上げ、小竜と見つめあった。
「……キミは……」
ただ、掠れた声で一言だけそう言って。
またしばらく顔を伏せた後、
「………………分かったよ」
ぽつりと小さく、小さく言った。
「……ホントッ? ホントに、ホントッ?」
耳聡く聴き取ったマーブルが目を輝かせ、まるで子供のように確認を取る。
「……ん。だけど、ボクは……マーブル達を信用したわけじゃ、ないからっ……!」
その言葉は照れ隠しなどではなく、搾り出すような剣呑な響きだ。本当に悩み抜いて出した答えだったということが容易に伺えた。
「……うん。分かってる。……分かってるわ」
胸に手をやりながら頷いたマーブルを見届けたユミルが、ゆっくりと息を吐いてテーブルと向き合う。
そして、ナイフとフォークをたどたどしく握った。
「それに……もし、毒とか入ってたら……」
「入ってるわけないだろ。なにより、仮に村の中で毒を食らったとしても、ダメージにはならないし、状態異常にだって……」
「ばっ……キリトッ」
「ふむぐっ!?」
慌てた風にリズベットがソファから腰を浮かして伸ばした腕で俺の口を塞ぐ。
……しまった、思い返せば微妙に言葉を間違った。
それを証明するように、ユミルが怒鳴り声をあげる。
「そういう問題じゃないんだよッ! もし、もし何かあったら……本当の本当に怒るから! 絶対に、許さないからッ……!!」
「うん、分かってる」
ユミルの対面に座るアスナが、まっすぐに彼を見つめて言った。
「それでいいよ。万が一、毒なんてあったなら、わたし達を一生許さなくていい……ううん、もう人なんて信じなくていい。……だけど、今このひと時だけ、ほんの少しだけ心を開いてくれるだけでいいんだ。それで充分なくらい……わたし達は心を込めて、料理したから」
「っ…………」
ユミルはアスナの心の奥底まで覗くような、問いかけるような目を送り、彼女も真剣な顔のまま、ごく薄く微笑んで応える。
……そしてどれくらい経ったか、ユミルは無言でフォークとナイフを動かした。
手をつけたのは、ユミルの一番手前にあったロールキャベツだった。トマトベースのソースで煮込んだもので、ソースはマーブル、キャベツロールはシリカ、中身の具材と煮込み調理はアスナ、盛り付けがリズベット、そしてテーブルへと運んだのが俺という一品だ。
それを小さく一口分に切り分け、フォークで口に運ぶ。未だに男のものだとは思えない、瑞々しい桜色の唇が薄
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