20:『おいしいよ』
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れに反してマーブルは真剣だった顔をぱあっと笑顔に変え、手を合わせて喜んだ。
「……よかったぁ、ユミルの口から『食べたくない』って言葉が出なくて!」
「マーブル……?」
ユミルは顔を上げる。
「だって、ユミルは……あとは信じてさえくれれば、私達の料理を食べてくれるってことよね?」
「い、いやっ、それはっ」
次の瞬間、
――くきゅぅう〜
と、腹の虫が鳴った。
音源は恐らく、たぶん、十中八九、ほぼ確実にユミルの腹の中。
「あ、やっ、これはちがっ……!?」
――きゅるるるる〜う
「…………〜〜ッ!!」
ユミルはボフンッと顔を真っ赤にさせ、体を折って腹部を両腕で包み隠した。
――きゅぅ〜〜るるる
「な、なんなんだよっ、止まれよ、このぉっ……!」
まぁ、こうなるのも無理も無い。言うまでもないが、この場には料理たちの食欲をそそる芳醇な香りで満たされているのだから。
「……少なくとも、ユミルくんの体のほうは『食べたい』って言ってるようだね」
「うっ!? く、くぅぅうっ……!」
グサリと言う効果音が出てもおかしくない、的を射たアスナの指摘にユミルは、もう此方が可哀想になるほどの恥辱に耐え忍ぶ涙目を浮かべている。
「――……ねぇ、ユミル」
対して、マーブルは合わせていた手の指をそっと絡め……今までと打って変わって、真摯かつ優しい響きの、母親の様な声色で話した。
「な、なんだよっ? …………ッ?」
体を折ったままユミルが彼女を見上げた途端、先程とはまた違うマーブルの真剣な顔と祈る姿に息を呑んだ。
「……お願い。一口だけでもいいから、私達の手料理を食べてみてくれないかしら。それでもし……気に入らなかったのなら、もう……この宿に泊まりに来てくれなくていい。もう二度と、私に顔を見せに来てくれなくていいから……だから、お願い」
重ねて言い願った後……そう言ったのをどこか後悔した風に眉尻を下げながら、マーブルは彼からの返答を待っている。
「マ、マーブル……」
その言葉と表情に、流石のユミルもどこか揺らぎ迷う顔を見せる。
「……俺も……いや、俺達からもお願いだ。ユミル」
「キリト君……うん、そうだね」
気付けば俺もユミルに向かい合い、口を開いていた。アスナ達もすぐに頷いて賛同してくれる。
「もし料理が気に食わなかったなら、その時は……俺達も、もうユミルに何もしないよ。取り調べもしないし、パーティ同行もしなくていい。だからさ、俺達が作った料理、食べてみてくれないか。……俺は、食器運び位しか手伝えなかったけどな……」
「……………」
ユミルは黙って顔を伏せる。
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