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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第15話 嫌いな奴
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ることができた。軍人というよりむしろ政治家向きなんじゃないかと、クソ親父ならずとも俺は考えることもある。

 俺にはこの人がなんで軍人やっているのかよく分からない。有能な『人物』であるのは認める。だが結局この人は多くの会戦でロボスを補佐していながら勝った例がほとんどない。幾ら優秀だからと言っても、軍人になって六年程度の食器(=ナイフの反対)を上司として掣肘せず、専横すら許している。あまつさえ若手将校達の暴走を押さえる為にクーデターの親玉になるなど正気の沙汰ではない。どう考えても民主主義国家における優秀な『軍人』ではない。その良識とやらを十全に発揮したければ、とっとと軍服をスーツに替えてヨブ=トリューニヒトと対峙すべきなのだ。もっとも良識だけでトリューニヒトに勝てるわけがないが、レベロよりはマシだろう。この人の不作為で、一体どれだけの同盟軍将兵と軍属が無駄に屍を晒したことか。

 正直、俺はこの人が大嫌いだ。この世界では原作と異なるかもしれないが、『食器』よりも。

「大変失礼いたしました。小官はヴィクトール=ボロディン少尉であります。グリーンヒル少将閣下」
 フィッシャー中佐の薫陶よろしく、俺は感情を顔に出さず、努めて冷静に自己申告した。
「ほぅ……君が亡きアントン=ボロディン中将のご子息か」
「はい。少将閣下は父をご存じでありますか?」
 普段から『グレゴリー叔父のご子息』と呼ばれることはあっても、『アントンの息子』と呼ばれることはない。もう一〇年以上昔に亡くなったこちらの世界の実父を、昨日のように覚えている人は今ではグレゴリー叔父とレーナ叔母さんとクソ親父だけだろう。だがこの人は何故だ? 俺が視線だけで問いかけると、グリーンヒルは小さく微笑んだ。

「彼がシトレ少将指揮下で分戦隊を率いて最期の戦いとなったパランティア星域で、私は別の艦隊で幕僚を務めていた。士官学校でも三期上で、同期の間でも勇敢で正義感あふれる事で有名だった。何度かシトレ中将を挟んで会話したこともある。丁度、君が産まれたときだったかな。彼はたいへん喜んでいたよ」
「そうですか……父は軍の話を家では殆どいたしませんでしたので、閣下のお話を伺えて嬉しく思います」
「こんな話で良ければ、いつでも我が家に来てくれたまえ。彼のご子息なら家族揃っていつでも歓迎しよう。あぁ、今こういう話をしてはダメだな。貴官は今回の査閲の担当者だった」
 今更思い出したと言わんばかりに、少しオーバーな身振りでグリーンヒルは肩を竦めると、俺の横をすり抜けるときに軽く二度ばかり肩を叩いて行った。

 誰がアンタの家になんか行くものか。行ったところで悪い予感しかしないしな。

 俺は笑顔でオペレーター達に挨拶しているグリーンヒルの背中から視線を逸らし、拳をきつく握りしめるのだった。
 
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