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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十一話 苗川攻防戦 其の三
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馬堂豊久少佐

「発、転進司令本部
宛、独立捜索剣虎兵第11大隊
本文
貴官等ノ奮戦ニヨリ北領鎮台転進作業ハ本日夕刻ニテ完遂スル見込ナリ。
転進支援本部ハ大隊ノ転進ヲ、25日正午マデ待ツ用意、アリ。
本日、午後第五刻マデニ返信サレタシ」
導術兵の言葉を書きとめると、米倉は馬堂少佐に手渡した。
馬堂少佐はそれに目を落とし、苦笑する。
「良い知らせだな」
 ――だがタイミングが悪い、側道の部隊をどうにかせねば撤退できない。
そう考えていると今度は正面の鋭兵中隊から敵襲の報告が入る。
 ――どうやら向こうは二正面作戦を強制させたいようだ、面倒ばかりだ。
「ったく、向こうに導術兵がいないのが救いだな。あの数だけでも面倒だと言うのに」
愚痴を喉元で押し留めつつ自分の戦場へと意識を向けた。
――問題は現在、新城が相手をしている騎兵大隊だ、騎兵は追撃の専門家であり、勝利の象徴、戦場の華、銃兵が徒歩で撤退する相手には最悪である。

「大隊長殿、今は前のことを」

「――あぁ、そうだな中尉」
米山中尉に促されて少佐は思考を切り替える。
 ――撤退許可が出た日に焦って全滅なんて最悪の冗句でしかない。
だが――もう、我々の神経となっている彼らも限界だ。
 本部に附いている導術達は座り込み、ぐったりとしながらも連絡網を維持している。
 ――無理をさせて導術兵を死なせるのは気分が悪い。
ふと漆原の事を思い出し、唇が捻じ曲がった。
― ―いや、戦争で気分が良くなる事など無いか。この地獄で笑うのは自棄になった奴か魔王だけだ。


同日 同刻 側道防御陣地 側道防衛中隊
中隊長 新城直衛大尉


 思わず笑みが浮かぶ。
 ――ひょっとしたら分かりやすい形で勝利らしき物を得られるかもしれない。指揮官には命中しなかったようだが砲撃の効果は十分だ。指揮官は統率をとれなくなり、瓦解した後方から兵は逃げ出し、前方は銃撃で瓦解している。

「軍曹、次は敵の後尾を狙え。これを最後にする。
金森二等兵、砲の斉射後、剣虎兵小隊に突撃を許可しろ」
 壕に戻り予備隊に集合をかける。
「予備隊総員、装填及び着剣。砲の斉射後、もう一度射撃をしたら突撃する。」

 ――さすがに剣虎兵一個小隊のみでは厳しいだろうが指揮系統が瓦解した相手だ。
これで終わる。

「攻撃は馬か騎手の足を狙え。
逃げ出したら深追いはするな。」
剣牙虎を見せれば混乱は恐慌となる、数で勝るこの情況なら圧力としては十分だと新城は考えていた。

 砲声が響き後方で砲弾が炸裂し、施条銃の銃撃により騎兵たちが倒れる。
敵が恐慌寸前となったと見てとった新城は鋭剣を抜き、振り下ろす。
「突 撃!!」
手が震えるが不思議と足はもつれない、そして、脇を千早が
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