EP.23 幽鬼の巨影
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ポーリュシカの言葉に、ワタルは目を見開く。
驚いたのが分かったのか、彼女は治療薬の調合の準備をしながら言う。
「自覚がないようだね。年甲斐も無く無茶をしたこのバカが心配なのは分かるが、私だって治癒魔導士の端くれだ。時間が掛かろうとも、しっかり治して見せるさ」
「いや……貴女に任せます」
言いかけた言葉を飲み込み、ワタルはポーリュシカの住む木の家を出て行った。心が沈んでいた理由は自分でもなんとなく把握していたのだが……それを彼女に言うのは、なにか違う気がしたのだ。
そして、それはポーリュシカも同じだった。
「あの子、なんか隠してるね……まあ、私の知る事じゃないけど」
自他ともに認めるほどの人嫌いであるポーリュシカは、頻繁に妖精の尻尾の面々と交流する事は無かったが、日用品の買い出しや薬の材料の補充などでマグノリアの街を訪れる事はそれなりにある。街の中心たる妖精の尻尾の噂は、嫌でも耳に入るというものだ。
マカロフの容態を心配してという事も勿論あるが、それ以外に何かを思いつめている事がある――ワタルに関してそう感じた彼女がそれを追求しないのも、そこに理由があった。
「悩みかなにか知らないが、それを聞くのは私の役目じゃない」
その役目がかつて右目を治して義眼を作り与えた彼女のものであるなら、マカロフを介してとはいえ、頼みを聞いた甲斐もあるというものだ。ポーリュシカはそう思うと、自分の役目……マカロフの治療に専念するのだった。
= = =
「……盗み聞きとは、いい趣味とは言えないな」
ポーリュシカの家を出てから数分後、ワタルは森の中で虚空に向かって話しかけた。
すると、なにも無かった空間が歪みだし、全身を黒装束で包み、同じく黒い覆面で顔のほとんどを覆った魔導士が現れる。
「よく気付いたな」
「相変わらず薄い気配だな、ミストガン」
例によって魔力感知に長けたワタルだからこそ気付く事が出来たが、その気配は彼の名前が示すように霧のように希薄で曖昧。そんな彼は妖精の尻尾のS級魔導士の一人だ。
隠密行動のレベルの高さに舌を巻き、賞賛するワタルだったが、真剣な表情になった。
“枯渇”によって流出したマカロフの魔力はやがて、空気中のエーテルナノと同化してしまい、誰にも回収できなくなってしまう。
だが、ワタルの知る限りで、ただ一人例外がいる。
「ミストガン。至急、やってもらいたい事がある。お前にしかできない事だ」
それが、今ワタルの目の前にいる男、ミストガンだ。
何年か前に仕事先で偶然、彼の杖を使った魔法を見る機会があったワタルは、見た事も聞いた
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