暁 〜小説投稿サイト〜
Element Magic Trinity
紅蓮の傍に寄り添うのは
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らない。だから全員が沈黙する、重たくて肩身が狭くなるあの空気が。
あの空気で嫌な思いをするくらいなら怒りを抑えていた方がマシだ、と考えているのだ。だから、という訳かは解らないが、アルカは姉とあまり喧嘩をしない。勿論両親とも、だ。
が、声を掛けても無視をされるのには流石に腹が立つ。それが1人だけならまだしも、家族全員に無視されているなんて堪ったもんじゃない。

「聞いてんのかって……」

言ってんだよ、と続けようとして、止まる。
リビングには、誰もいなかった。
素早く周囲を見回すが、ソファに父親はいない。キッチンに母親はいない。慌てて駆け寄ってくる姉の姿もない。
あるのは昨日の夜見たのと変わらない家具と、ラップが掛かった1人分の料理、テーブルの上に置いてある二つ折りの紙だった。
手を伸ばし広げると、そこにはただ一言書かれていた。






―また会えるのなら、その時まで―






たった一行の文章の下に、3人の名前が書かれている。
父の名は、どこか角ばった字で。母の名は、緩やかでのびのびとした字で。姉の名は、女の子らしい丸い字で。
アルカの見慣れた文字が綴る一行の意味を、アルカは時間をかけてゆっくりと理解した。
本当はすぐに解っていた。彼等が何をしたのかも、解っていた。それでも理解したくなくて、理解出来ないフリをした。
それでも、自分をずっと騙し続ける事なんて出来ない。
いずれは理解しなければいけない事だ、と自分に言い聞かせて、アルカは廊下に置いてある通信用の魔水晶(ラクリマ)を繋げる。

「……ああ、じーちゃんか?オレだよオレ、アルカ。親父と間違えた?確かに似てるし無理もねえな」

そう言って、笑う。
笑っていれば全てが解決する。ふつふつと湧き上がる怒りを抑える事だって出来るし、悪くなりかけた空気をよくする事だって勿論可能だ。
孫からの連絡に嬉しそうに目を細める祖父を安心させるかのように、アルカは笑う。

「それでさー……1つ、言わなきゃいけない事があんだけど」

ポリポリと頬を掻きつつ、それでも笑う。
心の中で苦しんで、泣いて、どうしようもない怒りをどうすればいいか解らない本当のアルカンジュ・イレイザーを無理矢理押し潰して、ただただ笑う。
これから言うのは自分でだって認めたくない事実。それでも、言わなければならない。
震えそうな声も、今にも泣きだしてしまいそうな表情も、突然襲い掛かってきた寂しさも全てを封じて、へらりとした笑みを崩す事なく、アルカは言う。






「……オレ――――――捨てられたみたいだ」









アルカの中で、何かが音を立てて壊れた気がした。













「あー
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