第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
25.July・Afternoon:『Philadelphia experiment』
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事足りる。そう、思い直して前を見据える────
「全く、さ────」
ひゅう、と。風が吹いた。濃い、潮の香りを孕んだ風だ。この学園都市では、感じ得ぬもの。
背後を見遣る。気付くよりも早く、速く。向けられていた二挺の『H&K USP Match』。制動器に照準器を内蔵したカスタム型の、二挺拳銃から撃ち込まれた弾丸の雨────!
『てけり・り! てけり・り!』
それを自動防御、沸き上がったショゴスの蝕腕二本が激しくのたうち、弾く。通常の弾丸ではこの鋼じみた影の怪異には傷一つ与えられはしないし、生半可な魔術や能力でも高能力に匹敵するその再生能力を突破する事は能わぬ。
拾った命、その眼差しを向ける。延び上がったショゴスの蝕腕を掴み────『賢人バルザイの偃月刀』を掴み出して。
「ハッ────これはこれは……!」
対峙する。しかし、参った。目の前の、翠銀の少女の姿に。偃月刀を向けただけで、己の『誓約』に、今も苛まれて。
吐き気がする。意に沿わない事を無理強いされているような、壮絶な不快感。
「何だよ、『カインの末裔』。ボクに見惚れでもしたかい?」
それを、知っているからこそ。翠銀の銃士娘は、勝ち誇るように軽口を。作り物めいた美しい顔容。まるで、神話に付き物の……天使の如く。
「ああ────勿論さ、可愛らしいお嬢さん。だけど、先ずは名前くらいまともに語り合いたいね。俺は、嚆矢だ。君の名前は?」
ならば、答えよう。期待には、応えよう。軽口には軽口を、不遜には不遜を。
二本目の偃月刀を握り、掴み出して。血涙流す影の眼、足下に魔法陣の如く溢れさせながら。
「戦前の名乗りか……知ってるぞ、サムライの流儀だろ? やっぱり、お前も“混沌”に染まりつつある、か」
「はァ……?」
「まぁいい、『メイドのミヤゲ』だ、教えてやるよ」
意味の分からない納得に、刹那、注意を奪われた。その一瞬に、黄衣をはためかせながら────少女は、その魔導書を。
「ボクはセラ。そして、これがボクの魔導書……」
黄色い装丁の、呪わしき戯曲の音色をもたらす、それを。
「────“黄衣の王”!」
呪われた戯曲、星々を渡る風を讃える魔導書を。名状しがたき、風の邪神の顕現を讃えた書を。
聞いた者を速やかな破滅に誘う、狂気に満たされた第二楽章を記せし“黄衣の王”を掲げた────!
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