第134話 桃香の再就職 後編
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のは無理だろう。お前は荒事向きではない。治世で県尉程度が一番あっている。分かったら、さっさと立て」
正宗は優しい表情で桃香を見た。その表情を見て桃香は安心したのか立ち上がった。しかし、環菜は土下座したまま頭を上げることはなかった。
「環菜、桃香は県令を辞す。それで桃香は納得した。さっさと立て」
「嫌です」
正宗は環菜の言葉に耳を疑った。彼女の主君である桃香が県令を辞すことで納得しているのだ。家臣である環菜がとやかく言うことではない。
「桃香様は県令として頑張られていました。足らないのは賊を討伐する武力だけです。関羽が裏切らなければ桃香様がこのような辱めを受けることはありませんでした」
環菜は怨嗟の声を上げ「関羽が裏切らなければ」とゆっくりと言った。彼女の声音は憎悪に満ちていた。彼女にとって関羽は恨みの対象なのだろう。冥琳が掲示した正宗の条件を桃香に突きつけた時、環菜は「臨穎県の負担を軽減」と求め条件の変更を求めてきた。もしかしたら環菜は関羽のことなどもうどうでもいいのかもしれない。正宗と冥琳は環菜の言葉から何かを察した様子だった。
「環菜さん、裏切りって大げさ。愛紗ちゃん一人に仕事を多くまかせすぎて大変だったから家出しちゃっただけだよ」
環菜の雰囲気に困惑した桃香は元気良く環菜に声を掛けたが彼女は返事しなかった。
「劉将軍、桃香様にお力添えを! お力添えいただければ、この環菜は劉将軍への大恩を終世忘れず、その大恩に報いてみせます!」
環菜は顔を上げ、力強い声で強い意志を秘めた瞳を正宗に向けた。正宗は椅子に座したまま環菜を見つめた。
「桃香でなく環菜、お前が大恩に報いるというのか。環菜、ここで私が『死ね』と言えばお前は死ねるのか?」
「死ねます!」
環菜は正宗の眼を直視して淀むことなく答えた。正宗は椅子から立ち上がり腰の剣を抜き放ち環菜の首の右側寸前で止めた。彼女の首からは剣が擦ったのか血が少し滲み、首から鎖骨にかけ涙のように血が滴っていた。環菜は逃げることなく正宗を見つめていた。
「正宗さん! 環菜さん、最近少しおかしいの。許してあげてください」
桃香は正宗の側に寄り、必死で頭を下げた。それを正宗は無視し、環菜へ殺気の篭った視線を向け睨みつけた。環菜は緊張した表情で額に玉の様な汗をかきつつも正宗から視線を逸らすことはなかった。
「気に入った! 環菜と言ったな。お前に私の真名『正宗』を預ける。これより私のことは正宗と呼べ」
正宗は環菜から抜き身の剣を鞘に戻すと椅子に戻った。環菜は体中の力が脱力し、体勢を崩した。桃香は肩の力を脱力して疲れた様子だった。
「劉将軍、桃香様へお力添え下さるのでしょうか!?」
環菜は体勢を崩しながらも顔を上げ正宗
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