SS:途中の思い出
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・・・それでトラップに蹴っ飛ばされて死んだってんだから世話ないっすよ」
俺は何も言わないでただ相槌を打つ。
元々こういう時はあまりしゃべらないようにしている。口を開いても月並みな言葉しか出てこないからだ。
「・・・・・・アンタは、平気そうな顔してますね」
「そう、かもな。戦いに身を置いていない俺が口出しできることじゃない気がするんだ」
「なんすか、それ。意味わかんない。本当、意味わかんない・・・なんであんたみたいなのが生きてて、あいつは死ぬんすか」
戦えずに安全圏に籠っていれば死ぬことはない。
そんなことは誰だって知っている。
それでも、そこに留まっているだけではこの世界から解放されないから彼らは死地へと足を運ぶ。そうしているうちに、彼らはふとその不条理に気付く。
自分たちは命懸けなのに、あいつらは気楽に遊んでいるだけじゃないか――と。
「あいつにッ!アンタの歌を支えにしていた一人のプレイヤーが死んだことに、アンタは・・・・・・アンタはもっと考える事が無いんすかッ!!」
その手が、俺の胸ぐらをつかむ。
攻略組の人間だ、そのステータスたるやかなりのもの。
俺は碌に抵抗も出来ずに玩具の様に揺さぶられるだけだ。
この瞬間、誰かが割って入らない限り俺は絶対的に彼へ抵抗できないと言えるだろう。
それほどまでに俺は無力だった。
「俺に出来るのは死を悼むことと、ギター弾いて歌を歌う事くらいだよ。俺にはそれ以上は・・・・・・どうしてもできないらしい」
「・・・ッ、アンタは何で・・・なんでそんなに弱っちいんすか。何であいつはこんな弱っちい奴をあんなに慕って・・・・・・もういいっすッ!!」
投げ捨てられた俺の身体はみっともなく部屋を転がって、壁にぶつかって止まった。
圏内ではダメージを受けないのでそのまま立ち上がって、つい癖で床に接した部分を手で払ってしまう。埃などついてはいないのだが。
少年には俺が許せなかったのだろう。
それとも俺も自分も含めて全部許せなかったのかもしれない。
自分の信頼したその友達が慕った人間に、行き場のない様々な感情をぶつけたかったんだろう。
彼が怒ることは最もかもしれない。未だに俺の事を嫌っている人はいるのだし、戦えない自分の事を情けなく思う自分もいる。
心は正直だ。
心の指し示す方向を見て他の人は間違っていると思うかもしれない。でも、本質的にはそれが正しいのだ。現実を見て聞いて真っ先に抱いたであろうその感情は、結局それこそ自分の最も大きく感じている「我」の部分なのだ。
「・・・・・・怒らないんすね」
「まぁ、そうだな。昔はもっとどうでもいいことでカッカ怒ってたような気もするんだけど・・・・・・一緒に怒る友達もいなくなると、そのうち心が萎えてくるんだと思う
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