SS:途中の思い出
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の昔に終了しているが、2人とも喪服代わりに黒いスーツで来ている。恐らく意味はないけれど、それでもやるのが弔うと言う事なのかもしれない。
まるで形式に嵌っていることで、死者に対する誠意を自分に与えているようだ。
イナズマはポケットに入っていたジッポライターに火をつけ、それを線香に灯した。
緑色の線香の先端にオレンジ色の綺麗な火が灯る。
芯の先端さえ燃えていればいいから軽く息を吹きかけて余計な火を消し、それを俺に手渡した。
独特の香りが煙に乗って鼻に届く。
「吹いて消すのは行儀が悪いぞ。風で消せ」
「え、そうなのか?」
「ばあちゃんがそう言ってた。ま、次から気を付けろよ」
線香を墓の香皿の上に寝かせる。
もう家族や他の知り合いが来たのか、真新しい皿の中には燃えカスが残っている。
この香りが果たしてあの世界で死んだミスチルの心を鎮められるのかは分からないが、それでも墓がちゃんとあるのは悪い事だと思わない。
死んだ人間と向き合える形が存在するから、墓というのは昔から大事にされてたのかもしれない。
墓前に造花の花束と、あいつが好きだった煙草の箱を置いておく。
煙草には詳しくなかったが、甘い香りのする高そうな煙草だったのは覚えている。
実はイナズマの持っているジッポライターも元々はミスチルの遺品だ。
生前に彼がイナズマの部屋に置き忘れたものだった。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
合唱して、黙祷。数十秒の間、目を閉じたまま死んだあいつに思いを馳せた。
思い出すのは3人でバンドした思い出。
一緒に退屈な就職説明会を抜け出した思い出。
夏休みに旅行の計画を立てて楽しんだ思い出。
全てがもう2度と再現することのできない大切な思い出で――改めて、もう話も出来ない事を実感させた。
「さよなら、ミスチル。お前が戦い方教えてくれたから、最後まで生き残れた。お前の事は助けられなかったけど、俺はそのことも含めて生きていくよ」
「バイバイ、ミスチル。お前の連れて行ってくれた世界は出来ない事だらけだったけど、得難いものをたくさん経験できた。言い出しっぺのお前がいなくなったバンドだけど、続けていくよ」
ひゅるり、と冷たい風が墓と俺達の間を通り抜けて行った。
それはまるで生者と死者を別つような風で、なんとなくミスチルが「俺の事はいいから、お前らの生活に戻れ」と語りかけている気がした。
= =
涙で滲んじまったあの星影は、あいつが俺に宛てたメッセージなのかもしれない――
それは他の誰かが置いたかもしれないし、初めからそこにあったのかもしれない――
きっと暖かい世界へ生きる人の未来へと向けられたそのメッセージには――
お前の心が決めた方へ案
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