第百七十九話 集まる者達その五
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それでだ、井伊も無念の顔で言うのだ。
「とても」
「今我等は八方塞がりじゃ」
「大きくなろうと思うと」
「全く以て辛い」
「はい、実に」
井伊はまた石川に述べた。
「どうしたものか」
「機を待つしかないか」
「機をですか」
「うむ、今はな」
「耐えますか」
「それしかないわ」
石川はこう言うのだった、井伊だけでなく他の者達にもだ。
それでだ、彼はこうも言った。
「殿を見よ」
「はい、長い間織田と今川の人質でしたば」
「そうでしたな」
「うむ、そのことを思えばな」
今も徳川家はというのだ。
「今は遥かにましじゃ」
「ですな、我等の領地があります」
「三河に戻っております」
「あの頃とは全く違います」
「我等皆殿の下におります」
「そのことを思えば」
「そうじゃ、これまで我等はより辛いことに耐えてきたのじゃ」
家康の人質だった頃だけではない、ここで言ったのは鳥居だった。家康と長い間共にいる彼がだ。
「二代に渡り主を失ってきた」
「でしたな、広忠様といい」
「あの方もお若くして」
「今は何ともないわ」100
これまでの徳川家の苦労、松平家の頃のことを思えばというのだ。
「平気なものじゃ」
「そういうことじゃな。今は昔より遥かにましでじゃ」
酒井がここでまた言った。
「そして耐えるのじゃ」
「時を待ち」
「そして時が来れば」
「そこで大きくなろうぞ」
酒井は家臣達に確かな声で言った。
「よいな」
「はい、では」
「今は」
「待つべきじゃな」
その時をというのだ。
「まだな、ではじゃ」
「はい、今は」
「宴にですな」
「皆で出ようぞ。とはいってもな」
ここで酒井は同僚達を見た、それで今度言うことは。
「織田家と数を比べると」
「我等はですな」
「少ないですな」
「浅井殿や長宗我部殿より少ないのではないか」
笑ってこうも言うのだった。
「これではな」
「ははは、そうやも知れませんな」
「これでは」
「うむ、まあそれでもよいか」
少なくともと言う酒井だった、やはり笑って。
「我等は質はよい」
「織田家にも負けぬ位に」
「質はいいですな」
「だからな」
それでだというのだ。
「臆することなく宴に出ようぞ」
「そして馳走を食べますか」
「心おきなく」
「たらふく食うぞ」
その馳走を、というのだ。
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