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戦国異伝
第百七十九話 集まる者達その三

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「あれだけのことをしてきた方だというのに」
「明智殿はどう思われますか」
 その曇らせた顔でだ、細川は明智に囁いた。
「松永殿については」
「おそらくですが」
「はい」
「細川殿と同じ考えです」
 これが明智の返答だった、細川の今の問いに対する。
「あの御仁は」
「放っておくとですな」
「危うい御仁かと」
「ではあの御仁が隙を見せれば」
「柴田殿もそう仰っていましたが」
 もっと言えば織田家の殆どの者がだ、信長以外には羽柴や慶次以外の者は皆彼についてはこう言っているのだ。
「その時はです」
「理由を後からつけても」
「斬るべきかと」
「天下と織田家の為に」
「どう考えてもです」
 それこそ、というのだ。
「斬るべきかと」
「その通りですな」
 細川も頷く、やはり二人の考えは同じだった。
「あの御仁については」
「主家を則り」
「多くの讒言や暗殺を経て」
「しかも公方様を弑逆し」
「大仏殿も焼きましたからな」
「あまりにも剣呑な御仁です」
 例えだ、戦国の世であってもというのだ。
「ですから」
「まさに隙を見せればですな」
「はい、その時は」
「その通りですな、あの御仁だけは油断できませぬ」
「何があろうとも」
「その松永殿がです」
 細川は明智にあらためて言った。
「今回も何もです」
「仰いませんな」
「何もです」
「どういうおつもりでしょうか」
「織田家では何もしてきませぬ」
 織田家に入って数年経つのだ、松永も。
 しかしその間だ、彼は何もしておらずそれで彼等も話すのだ。
「おかしいですな」
「怪しい動きもありませぬし」
「心を入れ替えた筈がありませぬし」
「あの御仁に限ってそれは」
 絶対にないとだ、明智は言い切った。
「ないですな」
「その通りですな」
「蠍です」
 この毒虫だからだというのだ、松永は。
「蠍の鋏と尾は何時でも動けます」
「まさにですな」
「はい、何時でもです」
 それ故にというのだ。
「今も油断は出来ませぬ」
「全く以て」
「ですから」
 明智はさらに言う。
「この度もです」
「松永殿の動きには、ですな」
「気をつけています」
「毒なぞ盛るやも知れませぬな」
「はい、殿に」
 明智はそのことをかなり真剣に危惧している、それで言うのだ。
「そうしてくるやも知れませぬので」
「まことに油断出来ませんな」
「左様です」
「馳走や美酒の用意だけで安心出来ませぬな」
「はい、毒にも気をつけております」
「ではそれがしも及ばずながら」
 友としてだ、明智に名乗り出る細川だった。
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